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魔法発展途上世界  作者: ウルムアーツ
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第7話 現実

side:グレイ


 僕は分かれ道で兄さんと別れてからも今日の学園長との話を考えていた。

 何度考えても僕が魔法研究者を目指すといったときの学園長の態度はおかしかった。

 息子が両親の夢を継ぐということはそこまでおかしくないはずだ。だけどあのときの学園長は両親の夢を継ぐと言った僕を一瞬恐れていたようだった。


 兄さんは気づかなかったみたいだけど他愛ない会話をしながらも学園長は僕の真意を見抜こうとしていたし……。


 それにおかしいといえば父さんと母さんが死んだ日のことを僕も兄さんも覚えていないことだ。普通両親が亡くなるなんていう人生における重大な記憶を忘れるなんてことがあるだろうか。

 兄さんは僕達も事故に巻き込まれたかもしれないと言っていたけど、僕はそんな記憶は全くない。僕が覚えているのは母さんが僕と兄さんを泣きながら抱きしめて何かを言っている場面。それに父さんが僕の頭をなでながら何かを言って……。


 やっぱり何度考えても父さんと母さんが言ったことが思い出せない。そこまで考えて僕の中で一つの仮説が生まれた。国の特定機密となった父さんと母さんの研究。僕と兄さんの失われた記憶。この2つから考えられることは……




 もしかして父さんと母さんは国が現在禁忌の一つとして位置づけている『忘却魔法』の研究をしていたんじゃないか? 国が厳重に管理している『忘却魔法』だから特定機密として情報が伏せられているのか? 

 そして僕たちも研究に巻き込まれてその記憶を失ったのかもしれない。


……そこまで考えたところでようやく僕は寮の自分の部屋の前にきていることに気づいた。とりあえずこのことは後でゆっくりと考えることにして、僕はゆっくりと部屋のドアを開けた。


「ただいま。キース」


「よう。やっと帰ってきたのか。どうだった? 今日の学園長先生様とのご歓談は。」


 逆立っている真っ赤な髪とつり目のせいで町のチンピラにしか見えない僕の友人キースは瞑想中だったのか。ベッドの上で座禅を組んでいたが、僕を見るとおどけた態度で聞いてきた。


「別に、たいした話はしなかったよ。ただの近況報告。」


「そーかい。全魔法使いの憧れの存在と学園創立以来の神童がどんな話をしているのかと思ったが、ただの世間話とはね……。」


 キースはあからさまにがっかりした様子でつまらなそうにベッドに体を投げ出した。対して僕はキースの言葉が少し気に障り、少し早口になりながら言った。


「別に偉大な人は偉大な名言しか言わないわけじゃない。それに僕と学園長だけじゃなくて兄さんも一緒だった。」


 それを聞いたキースは笑いをこらえるような態度で


「ああ、そうだったな。あの学年最下位の落ちこぼれトリスは一応お前の兄貴だったもんな。それにしたって魔法も撃てない雑魚g」

「『初級氷魔法アイス』……」


 キースの言葉は最後まで続かなかった。ただでさえ学園長の不可思議な態度でいらいらしている中、兄さんへの悪口を平気で聞き流せるほど僕はおおらかな性格はしていない。

 僕が無詠唱で放った氷魔法によって部屋は氷付けになり、キースの首筋には氷の刃が数ミリ刺さっていた。


「僕の目の前でこれ以上兄さんを馬鹿にするな。兄さんのすごさを知らない雑魚が兄さんを侮辱するのは虫唾が走る。」


 僕は完全に頭に血が上っていた。


「ちょっと待てよ。確かに俺はお前の兄貴のことはよく知らないがあいつが魔法もろくに扱えないってのは事実だろ。俺はあいつの暴発に巻き込まれかけたこともあるし。あいつが人格者だろうがなんだろうが魔法を扱えない雑魚ってことに変わりないだろうが!!」


 さすがはAクラスで僕に次ぐ2位の成績をとり続けている男だ。僕の氷魔法で一瞬ひるんだが、すぐに立ち直りまさにチンピラのごとく僕に突っかかってくる……。


「…………」


「…………」


 僕とキースの間になんともいえない沈黙が訪れる。しかしずっとこうしているわけにも行かず僕は仕方なくキースに告げた。


「なら見せてあげるよ。僕が兄さんを尊敬している理由を。とりあえず今はまだ時間が早いから深夜1時になったら寮の前に来てくれ。僕は少し散歩に出てくるよ。」


「おい。待てよ!どういうことだよ?そんな夜遅くに何があるってんだよ!!」


 僕はその質問に答えず、すぐにキースに背を向け部屋を出た。




side:トリス


「ただいま。あぁ疲れた。アルヴァ、なに見てんの?」


「…………」


 俺は自分の寮に帰ると早速、同室の親友から無視の歓迎を受けた。落ち着け、アルヴァは新聞を集中して読んでいて気づかなかっただけだ。さっき弟に無視されたのを思い出して涙目になっている場合じゃない。


「おーいアルヴァ、なんか面白い記事でもあっt」

「あぁトリス、帰ってたのか。お前も見るか今日の一面は興味深いぞ」


 お前もセリフをかぶせてくるのか!? なんで俺と話す奴はこうもセリフをかぶせてくるんだ。いくら俺が鋼の心の持ち主でもそろそろ本気で泣きたくなってくるぞ……


 ということはおいといてとりあえず俺はアルヴァから新聞を受け取り一面に目を通してみた。

 見出しは「魔法特務部隊、実戦で華々しい活躍!!」で、下に戦場の風景を映した写真が写っていた。


「何だこれ……」


「見てのとおりさ。遅々として進展がない東国との戦争にとうとう政府は痺れを切らして『魔法特務部隊』を出撃させたんだよ。成果は……下の写真のとおりさ。」


 下の写真には東国の兵士の証である真紅のマントをつけた兵士が荒野で横たわっていた。

 あるものは全身がやけどして肌色の部分が見えない状態となっていて、

 またあるものは凍傷がひどく肌が切り裂け、周りには血の海が出来ていた。数はかぞえるのも嫌になるほどだがおそらく千や二千じゃきかないだろう。

 それに対して、王国の兵士はこの写真には写っていなかった。新聞として国民に配れるものだから王国兵が写らないように撮ったのだろうが少なくとも東国兵が倒れている一帯では王国兵の被害は出ていないことになる。


「なんでこんな一方的に。王国と東国は軍事的に拮抗していて長いこと膠着状態が続いてたはずだろ。『魔法特務部隊』が出てきただけでこんな……」


「まぁ、ありえない話じゃないだろう。この写真を見る限りおそらく前衛を王国兵が盾を持って敵の進行を徹底的に阻んで、後ろの安全地帯から特務部隊が上級魔法を撃ち続けていればたとえ特務部隊が二十人足らずでもこの写真みたいな結果になるだろう。」


 そんな……自分が安全域にいながら一方的に魔法で人を殺すなんて……


「まるで魔法による虐殺じゃないか……」


 俺は信じられなかった。今まで父さんや母さん、クレア先生から教えてもらった魔法は常に魔法を世の中にどう役立てるかだったはずだ。

 こんな、こんな風に魔法で多くの人が死ぬなんて、想像したこともなかった。


「…………」


「おいトリス、大丈夫か? 顔色悪いぞ。」


 俺があまりの現実に呆然としているとアルヴァが心配そうに俺に声をかけてきた。アルヴァは案外平気そうな顔をしていた。

 いや、それが普通なんだろう。

 少し考えれば魔法で人を殺すことなんて簡単だとわかる。


 俺達魔法使いは魔力が体を駆け巡っているから魔法に対して多少は耐性があるが、魔力をもたない普通の人間は炎魔法を受ければ体が燃えるし、氷魔法を受ければ凍傷を起こす。

 それが理由でかつて魔法は恐れられ、多くの国が滅んだということも授業で習っていたはずだ。

 普通の生徒ならばそんなことは当然のようにわかっていて、それでも覚悟を持って魔法を使っているのだろう。


 俺は覚悟ができていなかった。

 俺が使おうとしている魔法は使い方を誤れば平気で人を殺せてしまう殺人兵器なのだという事を知識として理解はしていても本当にわかってはいなかった。

 俺はこの事実に気づくとひどく気分が悪くなった。どうして俺は今まで世界は美しく、みんな魔法を利用して平和に暮らしていると思い込んでいたのだろう。 使い方次第では人を幸せにも不幸せにもする。それが40年前に人が手に入れた力だ。


「悪いアルヴァ。俺もう寝るわ。」


 それだけ言うと俺は返事も待たず自分のベッドに沈み込んだ。アルヴァがなんか言いたげな雰囲気でこっちを見ていた気がするが、俺はそれに反応する気力はなかった。

 結局何も言わずアルヴァも自分のベッドに入り、俺達は眠りについた。


                 


               ***





 まったく人の習慣というものは恐ろしいものである。現在時刻は深夜0時16分。

 消灯時間を無視してあそんだり自主練していた連中もさすがにもう各々の部屋に戻り、寝静まっている頃だ。

 しかし俺にとっては誰もが寝静まったこの時間こそ最適な自主練タイムだと思っている。魔法の恐ろしさに気づき、気分が悪くなりながら寝たので、今日は自主練は無理だと思っていたのだが、体はこの5年間ほとんど1度も休まなかった自主連のためにしっかりとおきているようだ。



 俺はアルヴァを起こさないように静かに部屋から出て、俺が秘密の自主練場所である立ち入り禁止区域に指定された学園の奥に広がる森のほうへ歩き出した。




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