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魔法発展途上世界  作者: ウルムアーツ
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第2話 期待

「……ふぅ」


 後に残るのは黒焦げの木偶人形だけであり、俺は過去最高の出来に感動している……はずだったのだが。


「はぁ……。またですか、トリス君」


 クレア先生はあきれたようにため息をつく。

 まぁ無理も無い。

 あれほど慎重に(練成)した魔法を放出するなど魔法を使うものからしたら失敗しろというほうが難しいのだ。 だが実際俺の右手にあった火球は俺が(放出)した後、一秒もたたずに完全に空気中に霧散してしまったのだ。


 残ったのは傷一つ無く無表情で俺を見つめ返す木偶人形である。


「トリス君。君はもう今年で17歳、この魔法学園に入学してから5年が過ぎているわけですが、な~ぜ1年生の最初で習う初級火炎魔法が出来ないんですか?あなたはいったい5年間なにをやってきたんですか。まったく。」


「何をしてきたってそりゃもうクレア先生の指導の下、厳しい魔法の訓練を乗り越えてきましたよ。」


「ドヤ顔で言うんじゃありません。まるで私の指導が悪いみたいじゃないですか。そもそも6年生にもなってDクラスに居座り続けるなんて歴代でも稀ですよ。もう卒業まで1年をきっているのに何でそんなに楽観的なんですか」


 この学園は3年生になるとAクラス~Dクラスまでの4つのクラスに実力順で分けられる。


 Aクラスはもちろん元々の魔力が高く、成績優秀な一部の者が入れるクラスであり、学年上位1割くらいが在籍している。


 Bクラス魔力はAクラスに劣るが、成績優秀で少ない魔力を工夫で補うような秀才タイプが多い、学園の3割くらいが在籍している。


 Cクラスは学園の6割くらいが在籍しているまぁ普通の奴らの集まり。


 そして最後にDクラスは最悪の落ちこぼれクラス。ここにきたらもはや卒業不可能とまで言われる実質落第宣告と同義のクラス。学年の汚点とまで言われている。この学年のDクラスは残念ながら俺一人だけだ。


「あなたは魔力自体はAクラスの人たちにも負けないくらい持ってるじゃないですか。これで魔法さえちゃんと扱えればAクラスでも夢ではないと思うんですがね、私も。」


 俺は一応反省しつつ目の前の教師を見る。Dクラスが俺だけなので実質的に俺専属教師になっている穏やかで物腰柔らかなこの先生も学生時代に一時期魔力が少なかったこともありDクラスだったころがあったらしい。


 そのせいもあってかAクラスの生徒達にはよく馬鹿にされているのを見かける。でもクレア先生の専属生徒になって4年目になる俺は、人並みはずれた魔法の知識や効率的に魔力を使う技術に関しては先生がこの学園どころかこの王国でも随一だとさえ思っている。


 正直、これほどの知識があればこんなところで俺に魔法を教えるよりもっといい職もあるんじゃないかと思うんだけど……。


 ちょっと前にそんな質問をしたら、先生は笑いながら、「私は才能がありませんからね~」と言ってごまかされてしまった。


「そういえば入学式のときは俺も結構周りから注目を集めたんだよな。」


 俺は魔法の(放出)は何度やってもうまくいかないが、ほとんど生まれた時点で上限が決まってしまうと言われる体内の魔力量は学年でもトップレベルだし、魔法以外にも変な特技があったりして、これでも幼いころは将来を期待され、鳴り物入りで入学したはずだったのだ。


「なつかしいな。初めての魔法実習でみんな不安定な魔法出してる中、俺1人魔法暴発させて先生方全員を唖然とさせたの……」


「あれは本当に肝を冷やしましたよ。でもこれだけの魔力があるなら、将来の首席は君じゃないかと当時は先生方の間で噂されていましたよ。」


「えっ、俺ってそんなに期待されてたんですか?」


 先生の言葉に俺は目を丸くした。あの暴発事件以来カリキュラムが変わり1年生の実習訓練が今までよりも遅い時期になったから完全にやらかしたと思っていたのに……


 まぁ、聞いた話では俺の4つ上の先輩も全く同じことをやらかしていたらしいから俺だけのせいじゃないとは思ってたけど。


「今Aクラスを教えてるブルーノ先生なんて、『俺があいつを世界一の魔法使いに育て上げてやる』って豪語していましたからね~。しかし、なぜそれがこんなことに。」


「ちょっ、本気で落胆しないでくださいよ。今見せますよ、俺がちゃんと魔法撃てるってことを、行きますよ」


 俺は先生の話を聞いて俄然やる気が出てきた。俺は過去に先生方から受けた期待を取り戻す。この一発でコツをつかんで一気にAクラスにいき、首席まで上り詰めてやる。


 俺が気合を入れて詠唱をしようとした瞬間。突然チャイムが鳴り響き俺の気合をへし折ってくれた。


「おや残念ですね~。今日の授業はここまでです。君の本気は明日の授業で見せてもらうことにしましょう」


「なんだよ~。タイミング悪いなぁ。でもクレア先生、明日を楽しみにしててくださいよ。必ず俺のすばらしい魔法を見せてやりますからね!!」


 そう言って俺は颯爽と教室から飛び出し自主練のため中庭へと急いだ


「では、また明日。ってもう言ってしまいましたね。」


side:クレア


 相変わらず父親のように猪突猛進ですねぇ~。まあ若いうちはアレくらい元気がある方がいいのでしょうが……。


 しかし、ほんとに彼の魔法については本当に不思議ですね~。普通ならあそこまで(練成)すればただ手をふるだけでも飛んでく魔法が霧散するなんて、魔法の才能が無いではなく、魔法を霧散させる才能があるといったほうが正しいんじゃないでしょうか。


 彼の魔力量は私なんかよりも数倍多いのだし、ちゃんと魔法を(放出)出来れば間違いなく私の全力でも適わないほどの魔法を使えるでしょうに・・・。



 まぁこの件に関してはセンスというしかないんでしょうね~。


 私は帰り支度の手を止めて、窓の外を見た。太陽は遠くの山に沈みかけ、もうすぐ空は闇色に染まり星が瞬くだろう。


「フリード、ルージュ、あなた達の息子は僕が責任を持って立派な魔法使いに育てますよ。」


 僕は今は亡き親友達に向けて静かにそう呟くと、教室を後にした。

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