第1話 発動
約40年前、突然この世界中に魔力があふれ出した。
この力は、今まで科学に頼ってきた者たちの生活を一瞬にして変えてしまった。
ある者は手から炎を出せるようになり、
また、ある者は己の周囲の温度を急激に下げることができるようになった。この力は世界に多くの混乱をもたらし一時期世界は法も道徳も失った。
かつてあった12の国はそれぞれが魔力という新しい概念に
困惑し、
混乱し、
恐怖した。
ある国では魔力を扱えるようになった者を徹底的に迫害しようとし、その報復によって滅んだ。またある国では魔力を持つものが国を乗っ取ろうと画策し、
滅んだ。
世界の南端に位置していたこの国もかつては魔力を持つ者と持たない者で内戦が起こり、国としての機能を完全に失った。
もはや他の国と同じようにこの国も滅びの道を行くしかないのだと誰もが絶望した。しかしそこに4人の賢者が現れ、人々を導いた。
賢者は突然与えられた魔力を恐れるでもなく驕るでもなく、魔力を持つ者も持たない者もわけ隔てなくただ目の前で困っている者達へと使い、圧倒的なカリスマにより民衆の支持を経て、3年もの間続いた戦争をわずか1ヶ月で終わらせた。
そうして人々は4人の賢者を中心に新たなる概念、魔法と共存していく道を選んだ。賢者達によって新たに建国された国は『魔法王国シエルノート』として魔法を使う者、『魔法使い』を保護し、魔法と共存していくという理念を打ち出したため、世界中で迫害され続けていた魔法使いが集まった。
そんな魔法も徐々に研究が進み、今では当たり前のように人々の生活に溶け込みつつある。人々は魔力を与えられて40年が経ち、徐々にだが魔法を正しく使い、生活に応用できるようになってきている。
現在魔法を使うものは王国人口の5%に達しておりこれからも増えていくことが予想された。
そんな中、魔法を正しく扱うため魔法を習う施設、『国立魔法学園』ができたのは必然といえよう。そんな魔法学園で俺は今残酷な真実を告げられているところだった。
「トリス君、君の魔法実技訓練の評価は0点です。あなたこのままだと本当に落第しますよ。」
「ちょっ、ちょっと待ってくださいよクレア先生。慈悲をくださいよ、0点はさすがに無いでしょう!!」
「本気で言ってるんですか?30分でフィールドに出現するモンスターをどれだけ倒せたかで決まるシンプルな試験で開始30秒にして魔力を暴発させて訓練室を半壊させておいてこれ以上何を期待しているんですか?」
普段から細い目をさらに細くして、呆れたような声で俺の大失態を告げてからクレア先生は手に持ったファイルからでかでかと「魔法実技訓練成績 0点」と書かれた紙を取り出し俺に渡した。
そうなのだ、いくら世界に魔力があらわれたからといって誰でも炎や雷を自在に操れたり、箒で隣の国まで飛んでいけるというわけではないのだ。
一部の超天才以外の、俺のような凡人は魔法の理論からはじめ、厳しい実技訓練を得てやっと魔法を自在に使えるようになるのだ。
その魔法自体まだまだ研究途中であり、魔法の限界というのもわかってない。今はほとんどが魔法をただ撃ち出すだけだが、最近になってやっと一般家庭の料理や掃除にも魔法を応用することが出来るようになってきたという所だ。
ある科学者は、研究が進めば魔法によって天候すらも自在に操れるかもしれないと考えているらしい。そのため魔法は世界を壊しかねないとして危険視する人も少なくない。
だから魔法の才能を持ったすべての子供はこの魔法学園への入学を義務付けられており、ここで魔法の使い方をマスターし、魔法を正しく使いこなせるようにならなければならない。
しかし、この俺はというと魔法使い同士の子供という恵まれた血筋に生まれながら、今まで一度もまともに魔法を撃ち出すことに成功していない。普通なら10歳くらいで簡単な魔法を打ち出せるようになるのが一般的なはずなのだが……。
思わず思考の海に沈んでしまっていた俺に唐突にクレア先生が言った。
「では、もう一度初級魔法からやってみましょう。トリス君、やり方はわかっていますね。」
「えっ?、ええ。大丈夫です。やってみます。」
そう言うと俺はまず右手に集中し魔法の(詠唱)を始める。(詠唱)によって空気中の魔力が右手に集まっていき炎の形を成していった。
魔力を適当にぶっ放すだけなら適当に手に魔力をこめてそれを撃ち出せば出来るが、魔法を狙った方向に正確に撃ち出すにはそれなりの手順が要る
この(詠唱)もその一つだ。決められた言霊を紡ぎ世界から魔力を得る。これによって魔法の種類、規模が決まる。
「いい調子ですよ。トリス君、そのまま慎重に(練成)をしてください」
「はい!!」
(詠唱)によって集めた魔力を魔法へと昇華させるため自分の魔力を注ぎ込む。ここで注ぎ込んだ魔力量がそのまま魔法の強さへと直結する。だがもちろん魔力量が多すぎれば暴発する
俺は威力よりも正確さを意識し今の魔法に適正と思えるくらいの魔力を注ぎ込んだ。右手の小さな炎は俺の魔力によってサッカーボールくらいの大きさになり、ゆらゆら頼りなくゆれていた炎も安定してきた。
よし、(練成)までは完璧だ。過去最高の魔法が撃てる。そう確信して俺は先生が用意した魔法練習用の木偶人形に向かって渾身の力をもって
最後の段階である(放出)を行う。
『初級炎魔法 ファイア!!』
俺の魔法が手を離れ木偶人形に向かって飛んでいく。
俺は成功を確信して、数秒後には燃え盛る木偶人形を哀れむ余裕すら生まれていた。
初めての作品になります。
これからキャラも増えていくので楽しみにしていてください。