饗堂(しょくどう) 2
「そういえば、『蒼穹』は、神の能力の特徴を知っているか?」
帰りのエレベーター待ちで、闇ルトさんは切り出しまます。
「もちろん知りません」
わたくしは答えました。わたくしは能力が現れてもいないのですから。
「一般的に、派手な効果が出るのは、低位な能力とみていい。ハリウッド映画のようにオーラやビームが出るとか、光る球体に包まれるとか、そういうのは95%は見掛け倒しだ。強力で濃厚で緻密な能力になるほど、『顕れ』はさりげないものとなり、顕れているのかどうか、玄妙なものになる」
「ほぅほぅ。そうなのですか」
わたくしは頷きます。芝居がかったセリフが出ている自分に気付きます。闇ルトさんの隣に居ると伝染するようです。厨二キャラ、侮れないです。
エレベーターが来たので、乗りました。
おや……? すると、一つ思い当たります。サキちゃんの能力により現れた「闇のオーラ」は、「低位な能力」のエフェクトなのでしょうか。闇ルトさんもそれを考えたようで、こう言いました。
「サキちゃんの能力は、見掛けは派手だが、あれは駄目だ。全然、駄目だ。一応おれは部屋を見に行ったが、深刻な被害が出るなんて最初から予想していなかった。あれは世界に対して何かをできる能力ではない。……空気に対してすら、な」
そうでしょうか……。わたくしには充分にすごい能力に見えたのですけどね。
「部屋のガラスは粉々になりましたし、ビルも破壊されましたよね?」
「違うなぁ、そいつは。おれが言いたいのは、能力は使うものということ。自分が使われるモノではない」
「……妙なことを、仰るものですね? サキちゃんは『使われている』というのですか?」
「サキちゃんの能力は極めて強力だ。本来ならばな。あれにはちょっとした二つ名がついてる。能力の中でも特別なものには二つ名がつく。だが、現状、サキちゃんは全然だめだ。状況は極めて悪い」
と言って、闇ルトさんは、いつになく真剣な視線になりました。
「おれは光線の被害よりもサキちゃんの方が心配だった。同じフロアながらしばらく姿を見ていなくてな。F監の見回りを口実に部屋を訪ねた時も、反応なしだった。最近4Fの神々が減っていることもある。気に掛けていたところさ」
「……そうだったのですか」
知りませんでした。そんな経緯があったとは。闇ルトさんはサキちゃんを気にしていたのですね。
わたくしは闇ルトさんの横顔を覗きます。黙っている真剣な顔は、やはり好男子に見えます。この方は能力についても造詣が深いですし、思慮深い面もあるのかもしれません。
エレベーターが到着しました。闇ルトさんは先に降り、わたくしを振り返ります。
「今日は久々にサキちゃんを見て、一安心ってところだ。『蒼穹』とお茶を飲んでいたのだろう? こいつは案外、『蒼穹』の力かもしれんな……。これからもよろしく頼むな。サキちゃんからは、おれは嫌われているんだ。ただロリッ子が好きなだけなんだがな。分かって貰えない」
全体に冗談めかして言いました。ロリッ子好きな闇ルトさんが、ロリッ子から嫌われるのは、因果なものかもしれませんがまあ仕方ないのでしょうね。
わたくしは今日のお礼を述べました。
「有意義な話とお食事、ありがとうございました」
「ああ、うん」
闇ルトさんは何となく寄って来て、わたくしの胸を「むにゅ」という感じで揉みました。
「え……?」
自分の顔が赤くなるのがわかります。わたくしはそのまま硬直していました。しばらくして、だいぶしばらくして、闇ルトさんは手を放しました。ぼぅんと胸が戻り、刹那、揉まれた感触が鮮やかに蘇ります。え……? ロリコンではなかったのですか……? 闇ルトさんは、木に生った林檎や梨でも見定めるような目で、胸の前でじっと見ています。
「すまんな。揉んでくれと言わんばかりの存在感で目の前にあったから揉んだ。悪気はなかったんだ。充実の感触だった」
と、さりげなく論評。
「いずれまた会おう――。『双丘のたおやかなる魔神』」
さっそうと腕を上げ、去りゆく後ろ姿。
揉みがいのある胸があったから揉んだ。
こ、この方は……ロリコンなだけでなく……。
変態です……!
氷上さんといい、闇ルトさんといい。
創舎は普通でない人ばかりなのでしょうか。
う~ん。やっぱり「思慮深い」は訂正しようかな……。