1Strange
はぁ…今日も朝から会っちゃったよ…。
「明日香?どーしたの?あっ、会っちゃった?でもさー、自分が死ぬ前に1度は、その、明日香が会うっていうユーレイ?に会ってみたいけどね」
「鈴奈、声大きいよ」
みんなこっち見てるじゃん…。
「あー、ごめん(笑)でもさー、視えるって凄くない?なんか、あこがれちゃうけどな」
「そう?まぁ、最初はまだいいよ。うまれてからずーーっと毎日視るんだよ?」
みんなとは、ちょ~っと違う家柄に誕生したあたしは、生まれつき視えるっていう能力を持っている。
普通の人間ならあり得ない話だけど、本当の話なんですよね。
両親もその両親もそのまた両親も、と代々受け継がれてきたことで。
詳しく言えば、この世に未練を残して亡くなった人がいたずらするのを阻止するのがあたしの役目。
しかも、これは、力として身に付いているものだから、死ぬまで付き合っていかねばならなくて…。
まぁ、しょうがないよね。
あたしだって、視たくてみてんじゃないもん。
あたしが顔をしかめたのを見た鈴奈は、声を押さえて笑う。
「ま、視たくないものまで視えるのは、ちょっとアレだね。」
鈴奈は、こうしてあたしの愚痴を聞いてくれる、家族以外の唯一の理解者。
「あ、ねね、今まで会ったユーレイの中でイケメンいた?」
出た。
これ、こないだも聞いてこなかったっけ。
「んー…あたし、イケメンってのがイマイチわからないから、答えようがないけど。」
「そっか~。早くイケメンユーレイさんに出会えるといいね」
いやいやいや。
「イケメンユーレイに出会っても意味なでしょ」
「ん?」
「ずっとこの世にいるわけじゃないんだから。」
それに、出会うなら、普通の人間がいいわ。
「そっか~。まぁ、普通の人間に限るよね♪」
「鈴奈はいるじゃん、イケメンの彼氏。」
あたしが言うと、まぁねーと途端ににやける鈴奈。
「明日香も彼氏つくりなよ?」
「こんな変な能力持ちのあたしを好きになる人なんかいないでしょ」
「えー?あたしが男だったら、明日香にコクられたら付き合うけどな」
それ…褒めてんの。
「意味がわからない」
「能力のことなんか気にするなーってこと」
「んー…。」
鈴奈はそんなこと言ってくれるけど、こんなあたしだって、素敵な出逢いを夢見てない訳ではないよ。
そしてこのあと。
思いもかけない出逢いをすることになるなんて思わなかった。
「今日は、ここまで。」
『ありがとうございました』
はぁー、やっと午後の講義終わったよ。
「鈴奈、今日も彼氏と帰るの?」
「うん、ごめんね」
「いいよいいよ。じゃーね?」
「バイバイ!」
鈴奈は既に外で待っている彼氏のもとへ小走りに駆けていった
あたしも帰る支度を済ませて大学を後にした。
「じゃーねー」
「「ばいばーい」」
途中まで一緒に帰ってきた人たちと別れ、自分家へと向かう。
そして1人になれば、いつものように後ろの気配が強くなる。
あたしは、わざと人気のない場所に入り後ろを振り向いた。
そこには、背の高い若い男が立っていた。
もちろん、あたしにしかみえない。
「さっきからあなたは誰ですか」
気付かれてないと思ってるかもしれないけど、残念。
『君は俺がみえるのか』
男は、驚いた表情でそう口にした。
「視えるから話しかけたんでしょ。誰ですか?」
『あー、俺は、二宮龍平。昨日、小さい子ども助けようとして車にひかれた。』
不慮の事故か…。
『まだまだ俺は、生きたかったけどな』
珍しく若者で、生きたかったなんて。
「あなた…いくつですか?」
『19』
ウソ…。同い年?
全く同い年にみえないんですけど…。
「そう…ですか…。」
『まぁ、人の役に立てたからいいけどね』
二宮さんは、仕方なさそうに笑って言った。
…なんて優しい人なんだろう。
普通の人なら、“なんで自分が死ななきゃならないんだ!"って
人助けした自分を呪うのに。
あたしには珍しく、もう少しこの人と話してたいって思ったけど、明日提出する課題が終わってないことを思い出した。
「…ごめんなさい、あたしもう帰りますから」
『えっえっ、なんで?ちょっと明日香さん!』
不意に名前呼ばれて驚いて、あたしは立ち止まった。
「なんで、あたしの名前……」
『さっきの話、聞いてたから』
「…盗み聞き?」
『盗み聞きだなんて人聞きの悪い。女同士で名字で呼ぶやついねぇだろ?』
二宮さんがあたしに近寄りながらそう言う。
「…小林です」
『小林か。でも俺は、明日香って呼ばさせてもらうわ。あ、俺は、くん、でいいよ。それにしてもさ、明日香って可愛い名前だよな』
……何ですかソレ。
ったく、この人は優しいのかチャラいのか…どっちも?
とりあえず、多少イラっとしたのでシカトして帰ろうと歩き出したんだけど。
さすがユーレイさん。
一瞬であたしの前にあらわれた。
『気分悪くさせたなら謝る。ごめん。でも、もうちょっとだけ俺の話を聞いてほしい。お願い』
「…こうなってしまったのは同情するけど、あたしにはあなたの話を聞いてる時間はないの。話を聞いてほしければ、お寺に行ってください。」
あたしがそう言うと、二宮さんは残念そうに目を伏せた。
…ちょっと言い方キツかったかな。
『そっか…。そうだよね。ごめんなさい。』
そう言って二宮さんは背を向けた。
あぁー!今の流し目ズルくないですか?
「………何日の契約?」
あたしは、少し離れた寂しそうな背中に問いかけた。
すると、彼は嬉しそうに振り向いた。
『100日だよ。』
100日…。
よっぽど生きたかったのね。
「なら、あと99日はあるから、明日でもいいですよね?」
『それが…俺、いく場所ないんです……。』
……はぁ。
その目が何を訴えてるのか、分かってしまうあたしはやっぱり情にもろい。
でも、ここまできたらもう後戻り出来ないよね。
「うちに来てもいいですよ。ただし、ウチの人たちみんな、
二宮さんが視えるからね。」
『マジですか!』
「まぁ…。とにかく、バレそうになったらあたしがなんとかするけど、何度もできる訳じゃないから気を付けてくださいよ?でなきゃ、即強制的に成仏……」
『分かったから、早く家帰ろう!』
二宮さんがあたしの言葉を遮り、先を歩き出した。
しかも、家帰ろうって、あなたの家じゃないし!
まあね?
とりあえず、少し話した感じ、イイ人ではあるみたいなので、連れてきたものの…。
「ただいま」
あたしがいつものように挨拶すると、泡のついたスポンジを持ったお母さんが、おかえりとでてきて、またキッチンへと戻った。
『部屋何処?』
後ろから小声で聞いてくる二宮さんに、あたしは階段の上を指差した。
「ねぇ、今日のご飯って?」
「カレーよ」
あたしがお母さんに話しかけている間に、二宮さんを上に行かせる。
「やった♪」
と言っときながら、足早に自分の部屋へと向かう。
「二宮さん!こっち」
『くん、ね』
「分かったから、二宮くん!」
『お邪魔しまーす。』
そう言って二宮くんは部屋を見回す。
「珍しいものは何もないけど……?」
『俺、女の子の部屋入ったことないもん。』
「?彼女出来たことないの?」
『普通そうゆう時って、男の家に連れてくるモンじゃん?』
あぁ、そっか。
何せ、あたしはその普通ってのをまだ経験してないものでね。
一通り見て回った二宮くんは、あたしのベッドに腰かけたんだけど…。
ちょっと待って……。
「…なんで座れてるの」
『えっ?……あっ!』
あたしは、二宮くんの手を握ってみた。
『「…通り抜けない…。」』
『明日香、これどうゆうこと?』
「解らない…。でも、聞いたことあるの。」
あたしは、パソコンをたちあげて検索してみた。
「あ、あった!」
あたしがクリックすると、二宮くんがあたしの隣に座った。
『「…死者のほとんどは、人間に見えないのはもちろんのこと物に触れることなど不可能と言っても過言ではない。」』
あたしたちは顔を見合わせた。
『「しかし近年は、ごくまれに死んだ後でも生前のように物に触れられたり、飲食したりすることができる死者が存在する。
また、物に触れられるが故に人間にイタズラをする死者が増えていて、彼らを“ミスチフ・ゴースト"と呼んでいる。」』
再びあたしたちは顔を見合わせた。
『…ミスチフって何?』
「英語で“イタズラ"っていう意味なの。イタズラをする幽霊ってこと。」
『そーなんだ。……明日香って1人っ子?』
「1人じゃなかったら家入れてないから。」