第3話
教会跡から着替え終わった男と女が出てきた
その姿は完全に新郎新婦
新婦が着ているウエディングドレスははあの日商人が着ていたドレスだ
そして新郎が着ているタキシードもまたあの日に女性が着ていたタキシードだ
新郎新婦2人はなかなかに様になっていた
「なんか悪いな」
当然新郎が曖昧に笑いながら少年に対して謝罪を織り交ぜた感謝をする
「何がですが?」
「いやなんでもないよ。・・・うん」
「そうですか」
新郎は何かを言い出そうとしてやめた
少年はそれ以上新郎に何を聞くわけもなくただ黙った
そして自殺の始まりを告げる
「予定ではもうそろそろここに着きますね」
「予定ですけどね」
新郎は皮肉まじりに言った
「では俺たちはこの辺で。警察につき付けられたり呼ばれたりしたらもう終わりですから」
「そうですね。本当は近くにいてほしいのですが」
「大丈夫です。音が聞こえる範囲にはいますから」
少年と新郎は互いに曖昧に笑いながら言う
そして少年と女性と商人は来た方向とは反対側から教会跡から離れていった
「ねぇ、本当に大丈夫なの?」
商人が歩きながら少年と女性に聞く
「大丈夫だろ」
「私もそう思いますよ商人」
そして教会跡に残されたのは新郎新婦のみ
特に会話がなくただ教会跡を2人は眺めている
そんな2人の表情は清らかなほど穏やかで美しいほどに微笑んでいた
聴こえてくる音は森の葉と風の静かな音だけ
音だけが聴こえる時間が5分ほど続き突然新郎が話し出す
「やっとだな」
「そうね」
新郎新婦が静かに話す
言葉にしなくとも2人の意思は通じ合っている
まさに相思相愛を具現化したかのような2人
しかしそんな時間が続くわけもなく
「そろそろ入るか」
「うん」
2人は教会跡の中に入って行く
それから数分がたった
そのとき少年たちが着て帰って行った方向とはまた別の2方向から声が聞こえてきた
「あいつは一体どこにいるんだ」
「そんなの私が知るものですか」
「なんで仕事を犠牲にしてまで」
「自分の娘なんですよ。当たり前です」
それぞれの方向から聞こえてくる声は50代前後の初老じみた男の声とかん高い女の声だった
似たような声に似たような会話の内容
「来たみたいだね」
「よかったわ」
教会跡の中で肩を寄り添いながら静かに話す新郎新婦
そしてその教会跡前では
「貴様は」
「ちっ。面倒な奴が」
「おら。奥様」
「お久しぶりですね」
新郎新婦の両親が出会ってしまった
互いの父親はあからさまに敵対態度をとり母親の方は静かに敵対していた
あくまで外面は仲良くそんな感じだ
「なぜ貴様がここにいる!」
「娘に呼ばれたからだ。じゃ聞くがお前はなんでここに来た」
「息子に呼ばれたからだ」
どうやら感情的になっている男が新郎の父親で冷静な男が新婦の父親らしい
「待てそれは一体」
そう新婦の父親が言うと同時に教会跡の中から新郎新婦の声が聞こえてくる
「お父様。お母様。中にお入りください」
急に聞こえてきた声に新郎新婦の両親は驚くが年の功や人生経験と言ったところかすぐに落ち着き教会跡の中に入って行く
そして中には手をつなぎ合い静かに目を閉じてる新郎新婦がいた
「お前ら一体何をしてるんだ?」
最初に声を出したのは新郎に父親だった
新婦の父親は2人を見た瞬間はぁ。とため息をつき呆れていた
「何って見ればわかるでしょ」
そう新郎は父親に問う
「見ればってな。お前」
「結婚式に決まってるじゃん」
新郎は父親の答えを待たずに言ってしまった
新郎新婦は内心物凄く焦っている
自分たちの両親がなんの護衛もつけずにここまで来るはずがない
何かあってもいいようにそれぞれ複数人の護衛は連れてきているはず
少なくとも50人はいる
そんな人数で自分たちにかかってこられたら抵抗するすべもない
だからここに集められるその前に終わってしまうそう考えていた
「ではこれから結婚式をはじめたいと思います」
新婦が急に話し始めた
結婚式がついに始まる
しかしすんなり新郎新婦の両親がそれを許すはずもなく
「何をバカげたことを。そんな男と」
「おい!貴様!!人の息子を」
口論が始まってしまう
しかしそんな口論を新郎が黙らせる
「いいから黙って座って見てろボケ!」
両親たちは一瞬にして黙りその場に座り込んだ
教会跡の中には椅子も床もなくむき出しにされた地面にそのまま座ることとなる
「聖歌歌う?」
新婦は新郎に尋ねると
「聖歌わかるの?」
「ううん」
「じゃ無理だろ」
新郎新婦は幸せそうに笑う
それを歯ぎしり交じりに見ている新郎新婦の両親
「ではいきなりですが結婚の誓い」
新婦は優しく言う
そして新郎新婦は互いに向き合い新婦は自分で新郎に誓うかを聴く
「あなたは私を健やかなる時も病の時も富める時も貧しい時も良い時も悪い時も愛し合い敬いなぐさめ助けて変わることなく愛することを誓いますか」
「はい。誓います」
新婦は目を閉じながら静かに優しく言う
それに新郎もやさしくこたえる
「では、あなたは俺を健やかなる時も病の時も富める時も貧しい時も良い時も悪い時も愛し合い敬いなぐさめ助けて変わることなく愛することを誓いますか」
「はい。誓います」
今度は逆に新郎が新婦に聴き新婦はそれにこたえる
そして誓いの言葉は最終へと向かう
「私たちは自分自身をお互いに捧げますか」
「俺たちは自分自身をお互いに捧げますか」
新郎新婦は互いに聴きあう
そして同時にこたえる
「はい。捧げます」
「はい。捧げます」
通常なら誓いの言葉はここで終了
しかし新郎新婦の誓いの言葉は終わらない
新郎新婦は互いにしゃがみ地面に置いてあった銃を手に取る
その銃を見た瞬間に新郎新婦の両親が騒ぎ始めるが新郎新婦はかまわずに進める
「またすぐに天国で会おうな」
「なに言ってるの。行くときも一緒だよ」
新郎新婦は互いに持っている銃を新郎は新婦の額に新婦は新郎の額に銃を向ける
そして静かに笑いながら最後の誓いの言葉を言う
「死ぬ時は同時に幸せにお互いを見つめ合いながらそしてあなたの手で」
「死ぬ時は同時に幸せにお互いを見つめ合いながらそしてお前の手で」
言い終わると同時に銃声が鳴り響く
新郎新婦は膝から倒れこみ互いの顔が真横ある状態になった
地面に倒れているのは目から涙を流し笑っている新郎新婦
互いの頬を涙が流れる
そんな状況を目の前で見た新郎新婦の両親は暫くの間声が出せなかった
そして声が出せるようになったとたん
「あ・・・あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
新郎の父親が発狂した
それに続くかのように新婦の父親も発狂していた
そして新郎新婦の結婚式は祝福のベルの代わりに狂乱の叫びによって幕を閉じた