第1話
とあるビル群の奥にある雑貨ビルの4階にあるドア
そのドアにはカタカナで“コロシヤ”と書かれた紙が乱雑に貼ってある
そのドアを開けて中に入ると少年と女性がいつものようにいる。
「いや~。これでしばらくは生活安泰だな」
「たまたまきた仕事に感謝しなきゃ」
朝御飯を食べ終わりソファーにいるのは大きなヘッドホンが特徴的な青黒い髪の少年
そんな少年の相手をしながらキッチンで食器を洗っているのはまるでモデルのような女性
「そう言えばあのスーツの人のニュースもうやんなくなったね」
「そりゃそうだろ。どんなに大袈裟にやっても行きつく先は自殺なんだ。1週間もあればメディアも飽きて別の話題探しをはじめるだろ」
あのスーツの男性の自殺から1週間が過ぎていた
男性が自殺した翌日のニュースは男性の自殺報道で埋め尽くされていた
どのチャンネル映してもあのビルが映し出されていた
「さて次の仕事が来るまでゲームでもしますか」
「来てもゲームはやってるでしょ」
女性の呆れた声を聞き流しながらゲームを始める少年
そんな少年に女性が話しかける
「そういえば最近またあのサイトが広まってるらしいね」
「あのサイト?」
「ほら自殺系サイト」
女性はそう言ってキッチンから少年のいるソファーの近くのパソコンが置かれてある机に座りパソコンの電源を入れる
「自殺系サイトってつくづく不思議だよな。あんな人殺しサイトみたいなの創ったやつらは摘発されないんだろ」
「そういえばそうだね」
少年はやっていたゲームをやめ女性のもとへ行く
パソコンの電源が付き女性があるサイト名を検索する
「そうだ、あの世へ行こうっと」
「これ最近ちょっとした騒ぎになってるサイトだよな」
『そうだ、あの世へ行こう』
自殺系サイトの中でも大人数の自殺志願者が集うサイト
理由としては各自殺方法によってカテゴリわけをされ従来の自殺系サイトより同じ死に方をしたい人が見つけやすくされている
こういったネット上で知り合った他人と自殺をするのをネット心中と言う
そしてそのカテゴリの中に“コロシヤ”があった
「おいおい。マジかよ」
「最近見てたらあったから見せた方がいいかなって」
「なんで自殺系サイトを見てるんだお前は」
少年が若干引き気味に女性に問いかける
女性は少年の言葉を無視して“コロシヤ”の文字をクリックする
するとそこには実在するかどうかがメインで書いてあった
「これ本当に自殺系サイトなのか?」
少年が疑いたくなるのを当然だった
そこに書かれた文字たちは実に楽しそうだったからだ
この部分だけを見てしまえば誰一人としてこのサイトが自殺系サイトとは気付かないだろう
「多分このカテゴリにいる人たちは大多数が遊び半分で覗きに来た人たちでしょうね」
「まったく。自殺系サイトをなんだと思ってるんだか」
中にはちゃんとした自殺志願者もそこに入るのだろうけどほとんどの書き込みがふざけて書いてあるのでその中に埋もれてしまう
「まったく。自殺志願者以外は自殺で画像検索でもしたらいいんだよ」
「あ。顔半分がえぐれた男性とかバラバラになってる遺体写真とかCGにしか見えない全身焼身写真とか出てくるよね」
「お前。詳しすぎだろ」
少年はそんな女性にたいしてあきれ返る
そしてソファーに戻りゲームを再開させる
女性はそのまま自殺系サイトめぐりをしていた
「このセカイって本当に理不尽だよな」
少年とそう何となくつぶやく
その呟きと同時にドアからとんとんと音が聞こえてきた
「お。お客さんかな」
少年は再開させたばっかりのゲームをすぐにやめドアへと向かう
女性も開いていたサイトを閉じパソコンのホーム画面に戻す
「はい。いらっしゃい」
少年がドアを開けるとそこには手をつないだ男女が立っていた
「あのここは自殺方法を考えてくれるところであってますか?」
唐突に立っていた男がそう少年に問いかける
少年は少し驚いたようだがすぐに仕事モードへと入る
「えぇ。あってますよ」
その少年の言葉に男女はお互いに見詰め合いほっとする
そんな2人を見て目の前の2人がお客様であることを少年は確信した
「立ち話もなんですし中へとどうぞ」
少年は2人をにこやかな営業スマイルで中へと案内する
中にはお茶など準備が完全にされたソファー前の机と女性が立っていた
2人は女性を見つけると会釈をし女性もまた2人に会釈をする
そして2人をソファーに座らせて少年は話し始める
「どうして今回はここに?」
「俺たちもう死ぬしかないなって」
「つまり自殺ですか」
わかりきった質問をしてわかりきった結論を出す少年
「はい。それでここのことを知って」
「それはどこで?」
妙に喰いつく少年を男は自身のスマホを開きそのサイトをみせる
「これって」
少年は思わず笑ってしまうところだった
なにせそのサイトとは今さっきまで女性とみていた
『そうだ、あの世へ行こう』
だったから
「まさかここから本当に来る人がいるなんて」
驚きを隠せない少年を男は不思議そうに見る
「どうかしたんですか?」
「いやこのサイト今さっき見てたばかりでそのカテゴリの中を覗いて見たんですよ。そしたら非自殺志願者のたまり場みたいになっていてまさか本当にここに来る人がいるなんて思わなくて」
「確かにこのカテゴリだけはなぜか多いですよね」
男もまさか相手がこのサイトのこのカテゴリを見ているとは思わなかったのだろう
男と少年は目があい思わず男と少年から笑いがこぼれる
「すみませんお客様。笑うつもりは一切ないのですが」
「いえいえ。こっちも同じですから」
男と少年はしばらくの間笑いあった
男の隣にいた女はそんな中でも笑いもせずただうつむき悲しい表情をしているだけだった
「っと笑いも収まりましたし本題に戻りますか」
「そうですね」
少年は笑い涙を人差し指で拭き取りながら話を本題へと戻す
「一つ伺いたいのですがよろしいですか?」
「もちろん」
「あなたたち2人はどうして死にたいのですか?」
少年は男と女に問いかける
もちろん反応するのは男だけだろうと少年は思っていた
だから男の方を見て話していたのだが
「それは」
「それは私が話します」
となりから透き通った綺麗な声が聞こえ少年は視線を声の方へと移す
目線の先には女が先程までとは違い顔をあげ少年を真剣に見ていた
そんな女を見て少年は驚きつつも話を聞く
「簡単に言ってしまえば結婚を私と彼の両親から反対されたんです」
男と女が出会ったのは大学生の時だった
とある講義でのこと
男が講義に必要な資料を忘れて隣に座っていた人に貸してくれませんか?と尋ねたのが女だった
無事に講義を終え男は何かお礼をと。女と食事をすることになった
その食事の際に意気投合しメアド交換
それからであって3ヶ月
男と女は付き合うことになった
「そこまではよかったんです。けど」
実は男と女は日本を代表する企業の息子と娘
しかもその2つの企業は悪い意味でのライバルだった
それを知らずに男は女の家へ遊びに行った
そして女の家へ上がると女の父がそこにはいた
それからは男と女はどこかの物語かのような運命をたどることとなった
「現代のロミオとジュリエットみたいだな」
少年は感心したようなしていないような表情をしていた
そんな中少年の隣にいた女性が男と女に尋ねる
「なんで駆け落ちはしないの?」
女性のその疑問はもっともだった
死ぬ前にまず逃げ続けてでも生き愛し合う選択肢も少なからずあるはずだ
「お互いの親に認めてもらってその2人で暮らしたかったんですよ」
女に代わって男は真剣に言う
「なんか堅いね」
女性はいまだにわからないといった表情をしている
そして少年は何かひらめいたようで
「わかりました。ではまた1週間後にここに来てください」
急にそう言う少年
さすがに男と女だけではなく女性も驚く
「いい方法が思いついたので準備が必要なんです。あとあなたたち2人にも協力してもらいたいことがあります」
男と女は戸惑いながらも少年の言葉を聞く
「今日はありがとうございました」
「いえいえ。ではまた1週間後」
「はい」
男と女はそう言って出て行った
不思議と2人からは楽しそうな表情が見られた
それはとなりにいる女性も変わらないようで満足げに笑っていた
「よくそんなこと思いついたね」
「まぁ。タイミング的にもよかったんだろうな」
そういって少年は2人を見届けた後ソファーに座りゲームを再開させる。