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コロシヤ-あなたの自殺手伝います-  作者: asit
リーマン賛歌-飛び降り自殺-
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第3話

PM7:00

この町のビル群の中で一番高いビルとあって屋上からの眺めはよく吹き始めた風も程よく気持よいこの時間

スーツの男性がいよいよ自殺する

そんな男性は目の前にあるものに対して疑問を抱かずにはいられなかった

そして我慢できずに隣に何事もないように立っている少年に問いかける


「なぁ。ひとついいか?」


「どうぞ」


少年はどうかしましたか?と言わんばかりの表情で男性の疑問を受ける


「俺って今からこのビルから飛び降りて死ぬんだよな?」


「えぇ」


「じゃあさ。今俺の目の前に見えるこいつらは一体なんなんだ?」


そんな男性の目の前には2mを超えるであろうスピーカーがビルの屋上の限界ぎりぎりのところに1cmの隙間もなくなれべられていた

そして下に町の大通りが見えるところには台らしきものが置かれていた


「何ってスピーカーと台ですよ」


少年は当たり前のように言ってくる

そしてよくみると台にはマイクが置いてあった

それを見つけた男性は何か勘づいたようでまさか。と表情に出ていた


「これまさか。あの時言ってた屋上から叫んでもらうってやつか?」


「なんだ。わかってるじゃないですか」


「今気付いたんだ」


男性はマジかよ。とつぶやきながらもこの状況を受け入れていった。


「どうせ死ぬんだから別にいっか」


それは開き直りかもしれないが男性に最後の一歩を踏み出させる良いきっかけになったのかもしれない

そして少年はそんな男性の背を見て不敵に笑う

その少年の横にいる女性は何一つ表情を変えずただ見ているだけだった


「よし」


男性が台の上に立つと少年の笑いがさらに不敵になり悍ましさを感じられる

そんな少年は楽しそうに言った


「さぁ。こっからはあなただけの時間です」


「あいよ」


男性は台の上にあるマイクを手に取る

下の大通りではすでに何人かが男性に気付いたようでざわついていた

そんななかでも男性はマイペースに最期を始める


「あーあー。マイテス。マイテス。おぉちゃんと入ってるなこれ」


男性のマイペースさとは対照的に下の大通りはさらに騒ぎが大きくなる


「おいおい。そんな騒がないでくれよこんなおっさんのためによ」


マイク越しに聞こえる男性の声はいたって落ち着いていた

そんな男性は優しく微笑むように笑った


「あーあー。いきなりだが俺は今からここから降りて死ぬ」


急に発せられた男性のその一言にざわめきが一段と強くなる

下の大通りではざわめきやケータイで写真を撮るシャッター音などで騒音となっていた


「だからそんな騒ぐなって」


そんな男性の言葉は届いているはずなのに下の野次馬たちには届かなかった

それに痺れを切らした男性は一言


「いいから黙って人の話をきけぇぇぇぇぇぇ!!」


マイク越しの男性の声は叫んだせいで音が割れスピーカーから出る声はノイズとなった

そんなこともあってか下の野次馬たちはいっせいに黙り写真を撮るのをやめただ男性を見るようになった

男性は下のそんな様子を見てほっ。となり一呼吸おいてまた話し始める


「ありがとう」


男性はただただ感情を漏らさず静かに話し始める


「俺は今から死ぬ。それは今さっき言ったことだ。だからこの場で死ぬ前に言っておきたいことを言おうと思っていたんだ」


下の野次馬を見ずに前の夜空に浮かぶ星々を見て話す男性


「けどいくら考えてもそんなの俺には何一つなかった。そりゃ会社の倒産とか家族に逃げられたとかあるけど俺はそんなことで死のうなんて考えもしなかった。むしろそんなことで死のうなんて思っていたら俺はとっくの昔に死んでいる」


男性は感情を押さえつけるようにマイクを持っている右手を強く握りしめる


「それにあったとしても上手く伝えられないから言わなかったと思う。上手く伝えられなきゃ逆に悔いが残るような気がするからな」



その頃ビルの下の大通りでは一人の少女がイヤホンをして歩いていた

スマホを操作しながらだったからか周りが動いていないことに気付かずにビルの屋上に立っている男性を眺めている人にぶつかった


「すみません」


少女がイヤホンを片耳だけ外してぶつかった人に謝る

しかしぶつかった人は少女の謝罪に耳を貸さずに上だけを見ていた

そんあ少女はなによもう。と言いながらぶつかった人以外にもその場にいた全員が立ち止り上も見ていることにようやく気付く


「いったい何があるのよ」


興味本位で全員が見ている上を見てみると


「・・・え。お父、さん」



男性は夜風に吹かれながら演説になっていない演説を続けていた

下で娘が見ているとも気付かずに


「例えばこんな時どこかの主人公は自分の人生の不憫さについて唱えたりするだろうが聞いている方にとっちゃそんなのはその場の臨場感を出すためのただのオプションにしか過ぎない。どんなに周りが心動かされようと俺は決して心動かされることはない。だってそんなオプションに心動かされるぐらいだったら死んだ方がましだから。まぁ、今から死ぬんだけどね」


シャレにならない洒落を言う男性の表情は初めてとは違い悲しさにおふれているように見えた

下にいるイヤホンの少女は男性の言った死ぬんだけどね。を聞いて顔が青ざめていき肩にかけていたスクールバックが少女から腕をなでるようにして落ちた


「うん。なんか満足だわ」


男性は急に納得がいったようで足を一歩前へ出す


「さぁ野次馬共!メインのお時間だ。ムービーを撮ってるやつはいるか?いたらネット上にアップしてもいいぜ」


男性のその言葉に下の何人かが反応する

そして男性がゆっくりと確実に足を一歩ずつ前へ出していきついに限界まで出し切った


「なぁ知ってるか。ここの夜風はめっちゃ気持ちいぞ」


その言葉を言い終わると同時に男性は最期を踏み出した

踏み出す直前右手を小さく上げ少年と女性に手を振った

少年はそれにこたえるように呟く


「いい死後を」


男性は目をつぶっている

夜風が気持ちいのだろうか。死ぬのがうれしいのだろうか

不思議と男性の表情は今までにないほどに優しいものだった

落ちるときは一瞬と誰かが言っていた

けどそんなのは生きている人間が言ったものであって自殺した人間が言ったわけではないが男性には本当にほんの一瞬のように感じられた

地面に引き込まれるかのように綺麗に男性は地面に落ちていく

そんな中イヤホンをしていた少女が叫ぶ


「お、パパ!!」


その声を聴いて男性は最期に微笑み少女を見て地面へと落ちた



「どきなさーい」


警察がビルの前に来ていた

誰が呼んだのかはわからない


「君大丈夫?」


一人の警察が声をかけたのは地面に倒れこみながら泣き叫ぶ一人の少女だった

激しく嗚咽しながら泣き叫んでいた

あの時、男性と少女は目があった

少女はその後すぐに目の前で自分の父親の最後を見た

あの時なんで上を見てしまったのだろう

なんで父親と気付いて一番前まで来てしまったのだろう

なんでもっと早く父親を叫び呼ばなかったのだろう

そんな考えが少女の頭の中を永遠とまわり続ける


「一度ここから離れようか」


警察にそう言われるもそこから動かない少女

その少女の前には綺麗に残った血を流した父の遺体があった

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