第3話
今日はたまたま曇天模様。
雨が今にも降りそうで雨雲が今か今かと雨を降らせようと我慢している。
そんなじめっとして気分がいまいちのらないような最悪のコンディションの日にイケメンは死ぬ。
「お前。ついてないな」
「いろいろとね。今日の撮影は外だし」
「うわ。ドンマイ」
「なんでそんなニヤついてんだよ。バカにしてんだろ」
少年とイケメンが“コロシヤ”のソファーに座り雑談している。
「ニヤついてなんかねぇって」
「いいや。ニヤついてるね。現在進行形で」
「はいはい。冗談がお上手で」
時刻はまだ午前。時折、雲の合間から覗かせる弱弱しい太陽の光はまるでイケメンの最期を華やかに飾るために登場を惜しんでいるようにも見える。
「お、時間か」
「もうそんな時間か」
「じゃ、逝ってくる」
「おう! ほらこれもってけ」
そう言って少年はイケメンに小太刀を投げ渡す。イケメンはそれをキャッチし「thank you!」とめちゃくちゃ発音よく礼を言って“コロシヤ”から出て行った。
「無事、死んで来いよ」
少年は一人さみしそうに朝から黄昏ながらイケメンの背中を見ていたが後ろから様子をずっと黙って見ていた女性が「ばっかじゃない」と、冷たく言ってきたので「え!?」と振り向き驚いた。
それから時間は1時間程度は過ぎただろうか。
都内某所にある味のある橋の上でイケメンは切腹シーンを撮る。
そこにはもちろんあの女優とその取り巻きと化したスタッフもいる。
「おはようございます」
イケメンが爽やかに現場入りを果たすが誰も返事をしてくれない。最近はイケメンのことすら見なくなってしまっているほどだ。
と、そこに例の女優が話しかけてくる。
「おはようございますぅ。わたすぃ、テメェのこととことん貶めてやっからよ」
「あ、そうですか」
「はっ? その態度なんなわけ」
「そうですねぇ。あ、もう出番なので」
イケメンは華麗に大人に女優からの悪態を避けるが、いつもならそこで終わっていたのが今日は違いその後に一言圧倒的な存在感と威圧感で言う。
「もし、この態度の答え知りたかったら、俺の芝居見とけよ」
その言葉にその場にいた誰もが何も言えずただイケメンをじっと見つめると言った構図が自然と出来上がっていた。
イケメンがそのままセット上に行くと監督が「はっ!?」と、気付きリハが始まる。
「では、リハいきま」
「リハいらないですそんまま行きましょう」
が、リハは始まらずに終わった。そしてそのイケメンの一言がさらにその場の空気を盛り立てる。
「でもいいのかい」
「はい。大丈夫です」
にこっと笑顔で監督の言葉にこたえるイケメン。
「じゃ、アクション!」
かちんと音が鳴り響き芝居が急に始まった。その場にいるイケメン以外の人はこれから始まるのがイケメンの自殺ショーだとも知らずに。
「我がお命。将軍様にお使いし、主君にすべてをゆだねてきたこの半生。さることながらゆくこともなくただひたすらに日々を過ごし労に酬いて、民が一人でも多く楽になることをただひたすらに願い過ごしてきたはず。しかし、かのような理不尽と屈辱は他では味わえんほどの憎悪が我が中で成長し、いつしか強靭な力となった。それゆえか、我を憎みねたむ姑息な奴らも現れてきた。かの存在はわが道を封鎖し邪魔してくる。しかしそ奴らに斬りかかろうとするならば反逆とみなされ牢に幽閉されたし。あぁ、久方ぶりの城下。空気が生物が木々や葉がとてもとても我が心を癒してくれようぞ。されとて、我が運命に変更はなく今日ここで自害されたし。それが我が最後の時」
イケメンのその演技の枠を通り越した何かその場にいた全員に伝わり誰もがイケメンから目を離せなくなっている。
それでもイケメンは気にせず雨が降り続く中続ける。
「我がいきた日々。中々に愉快痛快であった。何一つとして後悔はない。潔くいざ、我が最後を始めん」
そういってイケメンは少年からもらった小太刀を両手で持ち勢いよく上にあげた。その瞬間周りがざわめく。
「静まれ! 我が命最期の時ぞ。息ひとつするんでない。黙ってみておれ!」
瞬間、勢いよく降り下げられた小太刀はぶすっとイケメンの腹に刺さる。刺さった瞬間、血が少量ではあるが飛び散りイケメンの表情が変わった。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
叫びながら小太刀を横にずらしていくイケメン。血がぶしゅぶしゅと、飛び散りその様子を見ている人の中で気絶する人も現れてきた。
そして最期はすぽっと呆気なく抜け、抜けた小太刀をイケメンがその辺に投げ捨てる。からんからんと音を鳴らせる小太刀とともにイケメンはその場に倒れこむ。
地面には雨で広がった血。しかし今はもうその雨は降ってなく太陽がのぞき始めてきた。
「我が人生。中々よ」
イケメンはそう言って目を閉じ息をするのをやめた。その瞬間、太陽が顔を見せ雨によってつくられた水の鏡で光が反射し幻想的で神秘的な光景ができた。
まるでイケメンが天に昇れるように太陽が用意したサプライズの様だった。




