第3話
神主が訪れてからちょうど1週間がたった
今日は神主がここ“コロシヤ”に来るかどうかの日
来たら死が来なかったら生が神主を迎え入れる日だ
「本当に来るのかな」
「来るよ」
女性が弱気にそう言ったのにたいし少年はやけに自信ありげだった
外はまだ明るく少しまぶしいぐらいの太陽が程よい温かさを部屋にいれている
そんな部屋には少年と女性とあと一人屈強な男がいた
「なぁ。今日来なかったら俺って何しにここに来たの?」
「だから来るて言ってんだろ。これ以上イラつかせんなよ運び屋」
「一回目は俺じゃなくね」
「細かいことは気にすんな」
運び屋はえー。といった表情ではいるがこれ以上何か言うと少年がキレるとわかっていたのであえて何も言わずに心にしまっていた
そんな時だった
ドアからノック音が聞こえ少年が「どうぞ」と言うとドアが開き神主の姿が見えた
「すみません。早かったですかね?」
「いやむしろ好都合かな」
神主はそのまま部屋に入ってソファーの前と同じ場所に座る
その目の前にあるテーブルには少年があらかじめ女性に淹れさせておいたお茶が用意されている
「で、よく来たな」
「そりゃ来ますよ。ところでそこにいる男性の方は」
「あぁ。初めてだったな」
「どうも。“インドウ”の運び屋です」
「“インドウ”は会社名か何かですか?」
「まぁ。そう考えてもらって結構ですよ」
運び屋が神主の質問に流暢に答える
普段の運び屋からは想像もできないほどに仕事ができる人オーラが出ている
「今日はあなたの自殺のために来てくれたんです」
「そうだったのですか。ありがとうございます」
「なんか神主に礼を言われるとありがたみが違うな」
神主は今日も仕事着で来ていた
死ぬときはせめてこの衣服で
そう思ってのことだろう
「じゃ、長居は無用だし移動するか」
「だな」
少年が座っていた椅子から立ち上がり
立っていた運び屋は先に行ってしまった
「移動ってどこに」
神主が不安そうに少年にたずねる
下の方からはすでにエンジン音が聞こえてくる
そのエンジン音がさらに神主の不安をあおっていた
「あぁ。言ってませんでしたっけ自殺方法」
「聞いてないです」
神主がさらに不安を積もらせ少年に聞く
「あなたの自殺方法は入水です」
「入水ですか」
「だから場所を変える必要があるんですよ」
少年のその言葉に多少の疑いを持ちつつも神主は「なるほど」と納得して外に出て下へと降りる
下ではすでに運び屋と女性が車に乗っていた
「遅いぞー」
「悪い悪い。ちょっと話しててな」
「ほら。早く車のって」
女性が少年と神主をせかすようにうながす
そして全員が乗車完了となり車が動き出す
「そう言えばどこに行けばいいんだっけ」
「お前な。ここの海だよ」
そういって少年は運転している運び屋に地図を渡す
「今時紙の地図とか。でも地図はやっぱ紙だよな」
「どっちなんだよ」
そんな他愛もない会話が続き時刻が刻一刻と過ぎてった
海への道は案外距離があり有料道路に乗り途中の休憩所に立ち寄ることにした
「俺トイレいってくる」
「私も~」
「おん。迷子になるなよ」
運び屋と女性はトイレへと向かった
その場に残された少年と神主は自販機コーナーの前に移動してコーヒーを買っていた
「ほらおごりだ。神主さん」
「すみません。ありがとうございます」
少年と神主は近くにあったベンチに座る
外はすでに星が出てきているほどに暗くなっていた
「今日は一日中車の中だな」
「そうですね」
コーヒーを飲みながら少年と神主は小さく笑う
苦笑いと勘違いしてしまいそうになるほどに小さく笑った
「わたし。この人生でこんなことができるなんて思っても見ませんでした。それになんか注目されてますね」
「だろうな。今も少しは見られてるしな」
日本はコスプレ文化がほかの国よりも浸透しており神主装束でもいい年こいてコスプレかよ。と思われるぐらいだった
だが注目を浴びないわけではない
少なくとも見られる
有料道路に休憩所で神主が少年と仲良くベンチでコーヒーを飲んでいるのだ
注目されないわけがない
「そういえば君って何才なの?」
「何才だと思いますか」
「見た目から察すると14ぐらいかな」
「不正解です」
「じゃあ」
何か神主が言いかけた時運び屋と女性がトイレから戻ってきた
「あ、コーヒー飲んでる」
「いーなー」
運び屋と女性が目をキラキラさせながら少年を見つめる
主にコーヒーを
「仕事終わった後に買ってやるから」
少年は何かに負けたらしい
そんな様子を神主はとなりでほほえましく見ていた
「よしじゃあそろそろ向かいますか」
そう少年が言って4人は車に戻り目的の海へと再び車を走らせた
海に着いたのは深夜帯だった
まさに深淵といった闇が青い空を覆い隠しているんじゃないかと疑いたくなるほどに暗かった
「ここがあなたの死に場所です」
「ここが」
神主は何か感慨深そうに海を見つめる
「神主さんは太陽が昇ると同時に海に入ってもらいます」
「今じゃなくて?」
「太陽の光を背に海に入るってなんか神々しくって神主さんにぴったりかなと思いまして」
「言われてみればそうだね」
神主は苦笑いをする
自分の死に場所を前に上手く笑えないのだろう
「さてと俺は車で寝てるわ。明日も運転しなきゃだし」
「おん。お休み」
運び屋は車に戻って行った
それからしばらくして女性も眠くなったらしく車へともどっていく
「またですね」
「ですね」
そこには少年と神主がまた2人だけになっていた
しかし先程みたいな会話がなくただ海の前に立っていうだけの時間が過ぎていき空が青白くなってきていた
「そろそろですね」
少年は急に話し出した
「そうですね」
神主はそれに驚くこともなく淡々と話す
徐々に空が青くなっていき海に光が見え始めていた
「やっとだ」
神主は小さく言う
囁くよりも小さく言う
「では。そろそろ入ってもらいますか」
太陽が半分海から光をのぞかせていい具合に前が見えなくなっていた
「入りますね」
「はい。あなたに安らかな眠りを」
神主は優しく微笑み海へと入って行った
最初は海を歩く音と神主の姿が見えていたが神主が前に行くにつれ音だけしか聞こえなくなっていき最後には音すらも聞こえなくなった
まるで天国への道じゃないかと思うぐらいに太陽の光が神々しく見えた
「さて。少し寝ますか」
そう言って少年は車へと戻って行った