第2話
「毎回思うんだけどさ」
「なんだよ商人」
少年は“シニタガリ”にいた
今回は女性はついてきておらず少年一人なので
“シニタガリ”の中にいるのは少年と商人の2人
なかなかに違和感のある光景だ
「なんで依頼を受けるたびにボクにお客様の愚痴を言いに来るの?」
「愚痴じゃない。ただの定期連絡だ」
商人は、はぁ~っと長いため息をつく
どうやらこのやり取りを過去にも何度かしているらしい
そして少年は毎回のようにただの定期連絡だ。と言う
「ねぇ。このやり取り何回目?」
「さぁ?いちいち数えてるわけないだろ」
ドヤ顔で言う少年に対し商人はさらにそれに呆れる
もはやため息もつかなくなっていた
「で、今回は何がお望みなのかな」
商人は強制的に話の腰を折る
いやこの場合は話の話題を変えるの方があっている
そして少年はそれに気づかないふりをして商人に話を合わせる
きっと内心はもの凄く商人に対して文句を言っているだろう
「今回は学校の屋上から地面にまで着くロープがほしい」
「それってどれぐらいなの?」
「今回の依頼人が通ってる高校が確か4階建てだそうだ」
商人はう~ん。と考え込んでいる
その長さのロープはあるにはあるのだが
商人が考えているのはきっとロープの耐久性についてだろう
「今の言い方からするときっと今回は屋上からロープを首に巻いてバンジーでもさせるんだろう?」
「さっすが商人」
商人はえっへんと言わんばかりに満足げだ
そんな姿の商人もやはりかわいい
「で、そこで問題になるのがロープの耐久性なんだ。たとえ長さはたりても 耐え切れなくなってロープがきれたら首吊り失敗」
「ただの飛び降りになっちまうな」
「もし今回の依頼人がただ死にたいだけならそれでもいいんだけど。今回の 依頼人さんはさっきの愚痴から聞くと飛び降りは嫌がるよね」
商人はやはりう~ん。とうなる
少年も商人につられてかう~ん。と考え込む
「あ。でもなぁ」
商人が方法を思いついたらしいがなぜか言い出したくないようだった
「思いついたならまずは言ってみ」
少年がそう催促するといいのかな~。と商人は話し出したくない様子だったが仕方ないと思いついた方法を話す
「自分の手でロープを作る。これしか思いつかないや」
「って言うと」
少年は察しがついていたが確信を得るために一応商人に聞く
因みに少年はもうすでに後悔の2文字が表情からにじみ出ている
「一本一本をね」
商人はコレ以上言いたくなと表情で訴える
その訴えは見事に少年に届いた
「うん。わかった」
少年は徹夜でロープを作る姿を想像して少し吐き気がした
縄をなう
古来より人間がおこなってきた行動でありそれは現代にも受け継がれている
少年はまさにその状態だった
今回は縄ではないので正確にはロープをなう
作り方は単純
ただでさえ太いロープを一本一本をちゃんと絡ませながら詰っていく
それのループ作業
「これいつまで続くの」
「ボクも知らないよ」
少年と商人は軽い絶望感に浸りながら耐久性のある長いロープを誠意を込め作っている途中だ
「ねぇ場所って本当にここでよかったの?」
商人が半泣き状態で聞くと
少年が少し切れた口調で言う
「知るか!ってかここ寒いわ」
現在2人がいるのは“コロシヤ”のある雑貨ビルの屋上
この季節は夜が冷える
因みに時間帯的にはもうすぐで深夜帯になる
「防寒具着ても寒いねぇ」
商人が両手で口を隠しはぁ~。と息をする
まるでどこかの登山家のようだ
「ほら。早くすすめぇぅえ」
「あ、今あくびした」
少年が盛大にあくびをする
かれこれ作業を初めて軽く6時間は経っていた
なのに終わらない
2人は本当に終わりがあるのか。と考えながら作業をしているだろう
それと疲労感が顔からすごく出ている
「なにこの地味作業」
「ほら。もうすぐで終わるよ」
「あ、今そう言う気休めいらないから」
少年は商人の言葉を雑に返しその場に無言の空間が生まれた
無言の空間が生まれて3時間がたったその時
「あ、ライトの電池切れた」
商人の手元にあった懐中電灯が力尽き光を発さなくなった
「ここにきてそれかよ。ま、今はスマホのライトでも照らしとけ」
「そうするよ」
商人は自分の持っているスマホのライトを点け作業を再開する
そしてまた無言の空間が生まれた
それからまた時間は過ぎ太陽が昇り始めた頃合い
「あ、あれ太陽じゃない?」
最初に気付いたのは商人だった
「うっそだろ。マジか」
少年の表情が完全に絶望色になる
ただでさえ寒い中の作業と徹夜
この2つに加え絶望
中々にヘビーだ
「でもほら。あと少しだよ」
商人が作りかけのロープを見て笑顔で言う
確かにあと少しで終わる
だが今の状態の少年にとってはこんなにもと感じてしまう絶妙な量だった
「あぁ。だな」
少年は商人の言葉を完全に流し作業を再開させる
それを見て商人も再開させる
そしてまた繰り返し
作業が終わったのはそれから2時間程度の時間が過ぎたときだった
「終わった」
「終わったね」
少年と商人の静かな喜びの声が朝の青空に吸い込まれていく
2人は手を伸ばしその場に寝る
「もうマジ限界」
「ボクもぉ」
2人はそのまま寝てしまった
少年と商人が起きたのは昼過ぎ
少し暑い外
「う~ん。ねたぁ」
「ふわぁ~。おはよう」
少年は手を空に伸ばし起き上がる
商人はやけに色っぽく起きた
「本当にやったんだな」
「うん」
セリフだけ聞くととても卑猥に聞こえる定番のセリフを少年と商人は言うと目の前に置いてあるロープを見る
「本当によく作ったな」
「大変ってレベルじゃないほどに大変だったよね」
少年と商人の目の前にあるロープは500mlのペットボトル並の太さのロープがあった
この太さのロープなら市販されているかもしれないが2人は作ったロープは少し違う
ロープの素材にこだわりロープの中心にはよく曲がる鉄が入っている
「物凄く今更なんだけどさ」
「うん?」
「なんで俺たちロープの素材にこだわったんだろうな」
今更過ぎる問い掛けに思わず笑ってしまう商人
「本当だ。なんでだろう」
「だよな」
商人につられて少年も笑い出す
それからしばらく笑い合って少し落ち着く
「よし。これで準備オッケーかな」
商人が少年に問いかける
「いや。あとはこれを今日の夜に依頼人にあってから学校の屋上に設置して 完成だ」
「その時は手伝うよ」
少年と商人はそう話し合って“コロシヤ”の部屋の中に入って行った