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べ、別に時雨さんなら嫌じゃないですけど

 そして、



「ははは、話をその、戻しますが、ぇっと、ぅんと、前に私が時雨さんの指環、それが持つ症状抑制効果を〔私は使えない〕って言ったの、覚えてます?」

「あ、ああ!もちろん、覚えている!ん?そ、それがお前が、〔俺が魂で繋がっているにも関わらず、認識出来なかったこと〕と関係がっ!?」



 少女の助け舟、恥ずかしさを紛らわすための他愛無い話に、時雨は喰い気味に飛びついた。凛名のほうも、焦りを隠しきれない早口で続ける。

 それは、



「わわわ、私その!じじじ実は、1度死んでまして!」

「・・・は!?」



 時雨を驚かせるのに十分な告白であり、



「ぇっと、私の能力、〔月虹竜〕が発現した日。銀行強盗が、私の父を撃った話が、ありましたよね?」

「あ、ああ」

「あの日、私も撃たれたんです。この、額の真ん中を」



 振り返った凛名の額、傷一つないそこを少年が凝視するには十分な理由を持っていた。思わず手を伸ばした時雨の右手が、なぞるように凛名の生乾きの前髪をかき上げて額を撫でる。少年の硬い掌の感触で頬を染めた凛名に、暖房代わりの炎、強い光源が少女の背後で燃えているため少年が気づくはずもなく、ただ時雨は戸惑い交じりに聞いた。



「だ、だが・・・」

「そう。幾ら私が〔純竜種〕の使い手であっても、即死の一撃、致命傷を負えば、〔死ぬはずなんです〕。特別隔離施設の研究者さんも、そのことに頭を悩ませていました。でも・・・」



 凛名の言葉の先を読んだ時雨が、叫ぶように言った。



「親父、か・・・!?」

「はい。天出雲博士は、言いました。私達は間に合わず、〔君はあの時確かに死んだ〕。しかし、〔ミールが死かけた君の魂を補っている〕と」

「魂を、補っている?ミールに治癒系の力があったとか、そういうことでは・・・?」

「はい。ありません、だからこれは特殊な例であると博士は。1つの肉体に、2つの魂。生まれた時から共に在る私とミールでなければ、〔強い魂の結びつき〕が無ければ起こらないだろう現象だとも。そして、だから私は、〔ミールに守られている〕」



 つまり、



「そうか。お前は、今この瞬間も〔ミールの強大な魂に修復不可能なまでに傷ついた自分の魂を補ってもらっているから生きている〕。だから指環を使って、〔能力を封印することは出来ない〕。それは〔魂を補うミール〕を封じることになり、死に繋がるからだ」

「ええ。そもそも、そして、ミールは私を守るために、全力でそれを阻止すると思います」

「そう、か。言い換えれば、〔ミールが主人で、お前が従属〕という関係、なんだな?」

「はい。だから、〔ミールがもし時雨さんを私の記憶に侵入させても、ミールがそれを私に伝えないようにすれば、私はそれを知ることはない〕。私が何も知らないのは、そういうことだと思います。実際・・・」



 凛名はどこか悲しげな笑みを浮かべ、言った。



「私は、〔自然派〕が特別隔離施設を襲撃した日の、明確な記憶がありません。ただ・・・」

「ただ?」

「気づいた時には、私が、ミール、と・・・〔全てを壊した後〕だったんです」

「!」



 時雨は凛名の紫の眼差しを見てズキンと頭が痛むと同時、その光景を見たような気がした。

 破壊された白い研究施設、黒い煙を吐いて燃え盛る炎。

 その間に横たわる、無数の影。

 隔離されていた凛名を取り巻いていた、黒縁メガネの研究者や禿げた医師、世話焼きでふくよかな栄養管理士の、焼け焦げ黒ずんだ姿を。

 政府に潜り込んだ内偵の情報をもとに施設を襲撃し、再び暴走した凛名の力に蹂躙された狂信者〔自然派〕の、それでも人であることを示す真紅の色の血を。

 だから、



「しぐ、れ、さ・・・!?」

「・・・何だよ、これはっ」



 時雨は、左右の頬を流れ落ちたそれを力づくで隠すように、驚いた声を出す凛名の頭を右手で掴み、左手でその細い腰を引き寄せる。左肩に乗り、眠ったままの子竜、〔月虹竜ミール・ナール〕を恨むように涙を流した蒼い三白眼で睨み、怒鳴る。



「また、かよっ!?また指環を飛び越えて、俺の魂を外に、俺の力を使ったな!?お前は、〔俺に、どうさせたいんだ!?〕」

「しぐ・・・」

「俺を〔試す〕ような真似は、やめやがれ!」



 そう叫ぶと同時、時雨の脳裏を閃いていた凄惨な映像の流れが消える。

 次いで、



「あ・・・?」

「え?あ?ひぅうううううう!?」



 腰を浮かしていた少年の全身から力が抜け、凛名の華奢な肢体を覆うように倒れる。

 それからしばらくの後、



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



 見ただの見てないだの、触っただの触ってないだの、「べ、別に時雨さんなら嫌じゃないですけど」「やっぱお前ムッツリだろいや俺だって別にお前を嫌いじゃないけど」だのと、すったもんだのやり取りを繰り広げた2人は、それでも身体を離すこともなく沈黙の中で身を寄せ合い。



「・・・」

「・・・凛名」

「・・・はい?」

「もし、もし俺が・・・」

「・・・?」

「・・・その」

「・・・はい?」

「もし俺が・・・お前の望みを叶えられると思う、そう言ったら、どうする?」

「!?」



 ポツリと言った少年の声に、少女はハッと振り返る。


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