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選択と選択とインパクト

「〔守掌(まもりて)〕・・・〔赤子妖(あかごあやし)〕」



 中空に浮かんだ3次元映像の放った言葉により一回り巨大化した赤黒い巨人の背後で、時雨の耳は確かにその言葉を聞いた。少年の蒼い眼が捉えた視界には、〔銀色の両翼を広げた茶髪に蒼眼、フレームレスメガネをかけた少女〕が大和と巨人の間に割って入り、左手を掲げた姿がある。

 そこへ、



「ロル気者がああああああああああああああああああああ!?」



 訳のわからぬ言葉を叫ぶ巨人の剛腕が叩き込まれる。

 だから、




「お、ま・・・」

「ごめんなさい」



 キュッと唇を引き結んだ凛名が、狼狽える時雨を見てそう言った。同時に空気が破裂するような打撃音。巻き起こった突風により、先程少年が手榴弾を蹴り飛ばした窓から粉塵が廊下に流れ込み、一時的に視界を奪う。

 そして、圧倒的な静寂。

その中で、時雨の顔から一気に血の気が引き、上下の歯がカチカチとなり出す。予想される、最悪以上の最悪の事態に、少年の思考が停止する。

だから、



「ごめんなさい、時雨さん・・・私」

「凛・・・名?」



 時雨は粉塵の中から現れた影、赤黒い巨人と、その重撃をかざした左手を覆うように背後から回り込んだ銀の左翼で受け止めた少女の名を確かめるように呼ぶ。茶髪のウィッグが吹き飛び、桜夜の貸した英星高校の制服の上で泳ぐ、銀河のごとくなびく銀髪を見る。

 そして、



「もう、我慢出来ません・・・」



 少年の目を、苦渋に眉根を寄せ、今にも泣きそうなまでに潤んだ凛名の瞳が見つめる。



「もう、私のせいで、誰も死んで欲しくありません」



 掠れた声、神に懇願するような声が、時雨と巨人、尻餅をついた大和とその背後にいる桜夜や熊切に届く。停止した時間の中で、時雨の背後にいる襲撃者までもが赤黒い巨人と拮抗する銀色の少女を見、その言葉を聞く。



「この、貴様・・・?」



 事態を呑みこむ寸前の、大和の呆然とした声。



「・・・凛、ちゃん」



 凛名の過去を知り、凛名の想いを知った桜夜の震える声。



「ロルうううううううううううううううううううううううううう!」



 赤黒い巨人が再び動き、華奢な少女へ巨体からは想像もつかない高速の連打。

その全てを左右の手、その動きに追随する左右の翼で受け流す凛名。

水を殴るような手応えに、巨人がラッシュを止めて一歩を退く。

 決して離れない、時雨と凛名の視線。



「・・・ごめん、なさい」



 時雨に向かい、大和すら凌ぐ力を見せながら、凛名は泣き笑いのような表情を浮かべてそう言う。少年の思っていた最悪の事態を知っていた、それをわかっていてそうしてしまった少女は、ただ時雨にそう言う。

少年の能力は、彼女の苦しみを、罪悪感と苦痛に塗れた心を鮮明になぞる。

 だから、



 ブブブブブブブ!



 だからこそ時雨は、指環を外している限り拡張する能力、それが捉えた警察署の外にいる〔2人〕の存在を、スラックスのポケットの中で震えた携帯端末、〔いつの間にか、電子機器に強く、友達を想い過ぎる何者かの手によって回復した通信〕で思い出す。

 その振動で、耳に当てた携帯端末で、己のやるべきこと、〔自分がどうしたいのかをハッキリと理解する〕。

 だから、



『もしもし?時雨くん?』

雷音(ライン)白虎(ビャッコ)!そこから俺に向かって、なんでもいいからブチかませ!」



 時雨は、そう叫びながら立ち上がる。



「この、貴様あああああああああああああああああああああああ!」



 大和は、怒号を上げながら凛名を確保に向かう時雨へ走る。

 そして、



「まだだ!凛名!」



 時雨の伸ばした右手を、意を決した蒼い眼を、凛名が惑う瞳で見る。

 そして、



『まかせろ!必殺!ジャスティィイス!イイン、パクトオオオオオオオオオオオオ!』



 警察署の外におり、時雨の一言に携帯端末ごしに迷いなく応じた無二の親友、正義超人・真白虎丸の拳が、外壁から中庭までを突き破る超絶の暴風となる。


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