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お前だからな!

 一瞬意識を失った時雨の蒼い瞳は、床でバウンドした身体が再び巨人の手で引き戻された時、焦点を結んだ。感染者の強化された肉体であり、かろうじて受け身をとっていたとはいえ、時雨は自分の背中にある異物感と、衝撃で一時的に停止している呼吸に唇を震わせる。

 そして、



「ご、あ!?お、ぶ!?」



 両脚を右手1本で掴み直した巨人の足元で、呼吸の戻った時雨の口が血を吐く。どうやら叩きつけられた時に割れた床の破片の一部が背中から肺まで刺さったらしく、喘鳴のような呼吸の度に、時雨の唇は朱に濡れる。

 その上、



「貴、様ぁ!」



 時雨の状態を見て取った大和が強烈な鬼気と莫大な〔界子〕をその身に纏って、巨人の腕を狙って走り出した時、



「怠げ者は・・・」



 両脚を掴まれた時雨の身体が持ち上がり、



「いねぇがああああああああああああああああああああああああ!?」



 まるで棍棒のように、迫る大和を追い払おうとした巨人の右手によって振り回される。



「こ、ああああああああ!?」

「クソ!時雨!?」



 苦痛に思わず叫びを上げる時雨を眼前にして、しかし大和は手を出すことを躊躇う。人格が崩壊しているため巨人がそうしたのは本能的な行動であり、大和は達人であるにせよ、〔この状況で手を出して時雨が死なない保障〕は少女の中にはなかったのだ。

 いや、



「私に、どうしろと言うのだ!?貴様が引き受けると言ったのだぞ!?」



 ついさっき時雨に〔目の前のような苦境を任せた大和〕には、〔このような状況でこそ弱さを見せてしまう少女〕には、状況を決し、少年ごと敵を断ずるという行為は、どうしても選べなかった。

 だから、



「ご、あ、おい!?絶薙ぃ!?いいかぁ!?」



 漆黒の瞳を惑わせ、立ちすくんだ大和に、巨人にブンブンと振り回されたまま時雨は叫ぶ。

 それは、



「俺の両脚ぐらい!テメェにくれてやる!だけどな!?」

「貴、様・・・?」

「斬れるぞ!?お前だからな!」

「!」



 自らの失態を認め、覚悟を決めた男の声。

大和の刃の冴えを肌身で感じ、それを信じた少年の一任だった。

 だから、



「怠げ者は、いねぇがああああああああああああああああ!?」

「く、お!?」



 時雨は、ただその時を待つ。巨人によって窓ガラスに叩きつけられても、両腕で必死にガードし、窓枠にぶつかる衝撃に耐える。己の目的を達するために、ただそれだけのために命を賭ける。

 いや、



「・・・嗚呼。このような男に、丸め込まれるとは」



 面を上げ、嘆きの言葉を放った大和を見て、



「いいから、来いよ!?」



 赤く濡れた時雨の唇と同じ形、不敵な笑みを浮かべた黒の少女を見て、



「怠げ者はああああ!?」

「〔絶薙流〕!」



 翻った鮮烈な刃の下で、少年は確信する。


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