怠げ者は、いねぇが?
『助け、で・・・』
「〔天地〕、〔闊法〕!」
大和の制止を振り切って眼前の赤黒い巨人、〔自然派〕に洗脳された〔崩壊者〕に特攻した時雨は、大男の心の深奥、かろうじて残っている人格から漏れる苦しげな声に歯を軋らせる。
しかし、
『たづげ、で・・・!』
「〔攻脚〕!〔蠱足潰〕!」
疾走していた時雨は、動き出した巨人が踏み出した右足の甲に左脚の踵を突き込み、破砕。彼を救う術を持たない不甲斐なさと、こんなことをさせる〔自然派〕への怒りに衝き動かされた少年が、さらに動く。
「〔駆脚〕!〔地弾駄〕!」
ダンダンダンダンダンダンダン!
叫んだ時雨の両脚が、疾走の勢いそのままに天井に頭がつきそうな巨人の体躯を駆けあがる。本来なら地面を砕いて進む力技の走法に全身を打たれた巨人の身体には、時雨の履いたスニーカーの足跡がくっきりと刻まれ、一歩を退かせる。さらに、胸元を蹴って跳んだ時雨が反転、天井を蹴ってさらに反転し、脚から巨人の頭上に襲いかかる。
『だず、げ・・・』
時雨の耳には、白濁した目を向ける男の声が聞こえる。
自分が今まさに痛めつけている男、理不尽に生を踏みにじられた男の救いを求める叫びが届いている。
しかし、
「〔攻脚〕!」
だからこそ、
「〔滅玉嵐〕!」
時雨には、一刻も早く彼を楽にしてやることしか出来ない。豪雨のごとき勢いで連続して放った蹴りの乱舞で、巨人の顔、胸、肩を砕き、一息に息の根を止めるしか方法がない。
だから、
「るぉらららららららららららららららららららぁあああああああああああ!」
叫びを上げ、時雨は必殺の連続蹴りを乱打する。
そして、
「・・・怠げ者は、いねぇが?」
「!」
「時雨!?」
時雨は、伸びあがった巨人の両手が自分の両脚を掴んだ時、気づいた。瞬時に巨人の赤黒身体を精査した蒼い瞳には、信じられない光景がある。初めて時雨の名を呼んだ大和の叫びを聞いて、自分が完全に冷静さを失っていたことにやっと気づく。
しかし、もう遅い。
つまり、
「怠げ者は、いねぇえええがああああああああああああああああああああああ!?」
「う、ごお!?」
〔全くの無傷だった巨人〕が、時雨の身体を廊下の床へと力任せに叩きつける。
「ご、ば!?」
時雨の身体が、固い廊下の床を砕き、めり込む。