宣言
「おい!?腐れ待て!?このパッツン戦闘狂!?」
時雨は、打ち壊された倉庫と3人分の死体の群れから逃れるように廊下に出ると、背を向けて疾走する黒の少女に叫びを上げる。案の定、一瞬で眉間にとてつもなく不機嫌なシワを寄せた大和が立ち止まり、振り返る。
「そうか、先に死にたいのはお前か?」
しかし、
「黙れ、腐れ脳ミソ筋肉女!いいか!?聞け!?」
時雨は廊下に広がった血だまりで靴が汚れるのも構わず、大和に詰め寄り、襟首をグイっと掴んで引き寄せる。黒い殺意と蒼い憤怒が交錯、両者は一歩も引かずに睨み合う。時雨の口が、刹那の均衡を破って大和に押し殺した声を放つ。
「お前は何もわかっちゃいない。確かに奴らにとってお前は邪魔で、だからお前らを始末した後にゆっくり朧を探そうっていう、この状況の魂胆もわかる。だがな、お前はわかってない。〔お前自身のことをお前はわかっていない〕」
「〔私が私自身のことをわかっていない〕だと?何がわかっていないと言うのだ?」
詰め寄った時雨の謎かけのような言葉に、一層不機嫌な口調になった大和が応じる。
だから少年は、ハッキリと言ってやる。
「お前は〔自然派〕には勝てない」
「・・・キ、サマぁ!」
時雨の一言についに嚇怒を露わにした大和は、刀を握る両手で器用に少年の胸倉を掴むと、そのまま力任せに廊下の窓辺に叩きつける。とてつもない膂力で押し付けられた時雨の背中は背後の窓に蜘蛛の巣状の亀裂を奔らせ、圧迫される苦痛に少年の蒼い瞳が歪む。
しかし、
「何度でも言うぞ?お前は、勝てない。お前は、〔絶対〕に、〔この状況を作った自然派〕に負けるんだ」
「いい、加減に、しろぉ!」
時雨は、さらにミシミシと首を絞めつけられても、大和のプライドを一番傷つけるのであろう宣言を撤回することはない。
なぜなら、時雨は気づいていたのだ。
超級の戦闘者、〔AVADON〕であるはずの、大和の致命的弱点を。
つまり、
「お前は、〔人質を取られたら負ける〕!あの、爆発の時、〔身を挺して俺と波崎さんを助け〕、今また、〔俺らを逃がそうとするお前〕は!〔人権を無視してもいいAVADON、あの東全獅とは違い、それになり切れていない〕、お前は!」
「キ、サマ・・・」
時雨の首を絞めていた大和の力が緩む。




