もも肉100グラム89円
「とりあえずさ、これでコイツら勘弁してやってくんね~かな」
「うん、ま、いいやさ」
時雨は通話状態にした、怒声を上げる携帯端末をガデティウスの座席に置き、先程声をかけた小柄な初老の男と話していた。その手には、タンクトップと金ネックレス、パーカーから奪った、タンクトップや金ネックレス、パーカーが握られている。つまり、近くには半裸の男達が転がっていた。
しかし、時雨の声音は追い剥いだ男達を無視して、打って変わって穏やかに言葉を紡ぐ。
「ホントごめんな。いつも捜査協力してくれてんのに、こんな時間に寝床荒らして」
「いいやさ、いつも世話になっとんのはこっちやからさ。普通の探偵は、ワシらに金なんかだしゃせんからさ。大丈夫、コイツらは、都市の門まで無事に届けとくやさ」
「流石、温厚に見えて武闘派ノンさん。リーダーのアンタにそう言ってもらえると助かるよ」
時雨の前で、日に焼け、垢にまみれた男、この近辺のリーダーたる人物の顔がくしゃりと笑う。その腰に、小さな影がぶつかる。時雨を見上げる黒い瞳は、汚れたウサギのぬいぐるみを抱いた子供だった。
「おお、ワシの孫やさ」
「ふ~ん」
時雨は、その色黒の子供に向かい、考える素振りを見せた後、
「おい」
「ひゃ、はい?」
時雨が初老の男と交渉する間、ずっとガデティウスの影に隠れていた宮部マリアに声をかける。その右手が伸びて、少女を呼ぶ。周囲を見渡し、恐る恐る少女が近づく。
瞬間、
「いぎゃ!?」
「お、あった」
時雨の右手が少女の首元に伸び、そこから制服の内側、胸元へと侵入。しばらく右手でまさぐって、時雨の手は狙っていたペンダントを引っ掴む。手を抜く時、勢いよく少女の首からそれを引きちぎる。その段になって、やっと少女は悲鳴を上げて、時雨に詰め寄る。
「ふざけんな!ちょっとそれ返してよ!アンタ幾らなんでもいい加減に・・・!」
しかし、
「ああ、いいよ、お前がこれを渡さないなら、今日のことは〔余さず正確に〕お前の父親に報告する。せっかく俺がノンさんに頼んで、アンタらの命だけは助けてやろうと思ってたが、それも無しだ。知ってるか?この近所には、〔色んな肉〕を扱ってる〔ラバの肉屋〕があって、お前なら有名私立女子高生ってことで、ここらの〔特定種肉食主義者〕にもも肉100グラム89円の大特価で売れるぜ?」
「・・・!」
時雨は赤面して震えていた少女を一瞬で青ざめさせた。少年はそのまま少女を放置して、
「ほら」
「え・・・?」
時雨は右手が掴んだペンダント、今時分は非常に高価な汚染されていない小ぶりのエメラルドの嵌ったそれを、ぬいぐるみを抱いた子供に指しだす。
そして、
「お前も、親父と母さん、いなくなったんだろ?」
静かに、時雨はそう言った。驚きに、子供と老人の目が見開かれる。
「・・・!?」
「よう、わかりなすったや?」
「わかるさ、だってノンさん超臭いのに、コイツ抱き着いてきただろ?普通親がいればしね~って、そんなの。俺だって今すげ~我慢してるもん。女の子なんだし汚い臭いの嫌だろ?なあ?」
「よ、よく女の子ってわかったやさ。でも、そんな洞察力、嫌やさ・・・」
時雨の冗談が、キョトンとしていた子供に届く。僅かの間を置いて、子供は鼻を摘まんで笑った。その手に、時雨は輝くエメラルドを掴ませ、自分の手で覆う。真剣な眼差しで、言葉を繰る。
「で?お前は、どうしたい?」
「え・・・?」
子供に向け、時雨は問う。