お前かああああああああああああ!?
そしてついに、勝ち誇った顔で熊切が哄笑する。
つまり、
「ア~ハッハッハッハ!フフフフ~ぅ、なんて間抜けなのかしら~ぁ、この娘達は~ぁ?いい、そもそも、アナタ達、わかってないわ~ぁ?うちの飛鳥ちゃんはね~ぇ?アナタ達とは比べ物にならないほど・・・」
熊切刑事は、
「シーくん好みの奥ゆかしいドMで、3歩後から下着とYシャツで付いてくる変態娘なのよぉ!?」
「アンタ自分の娘なんだと思ってんだ腐れ刑事おい!?」
思わず時雨が敬意を忘れてしまうほど、着地点を間違えていた。
だが、この状況に呑まれているのは、時雨以外の全員だった。
だから、
「だ、だからって、許嫁なんて、聞いてない!」
「そ、そうですよ!そんな、許嫁なんて出てきたら、私どうしたら!?」
当然のように、桜夜と凛名は謎の抗議を口にして立ち上がる。もういい加減ついていけなくなっている時雨は、熊切に抱えられながらぐったりと肩を落とす。
しかし、
「あら~ぁ?じゃあ見せてあげるわ~ぁ?」
熊切がジャケットの懐から取り出した写真と、それに付随した発言が、
「ホラ、これがウチのキャワイイ飛鳥ちゃんで、シーくんの許嫁。夕陽丘幼稚園の年長さん、今年で5歳になる愛娘よ~ぉ?」
2人の少女の眼を点にする。
次いで、一瞬の停滞から回復した少女達が、赤髪赤眼の幼女が許嫁である時雨について話し出す。
「・・・嘘、マジ?幾らなんでもアレは引いたわ~」
「・・・私もです、桜夜さん。幾ら超少子化社会とはいえ、アレは完全に時雨さんロリコン」
「おいいい!?何喋ってる!?微妙に聞こえる音量でぇえええ!?つうか騙されんなぁあああ!」
2人でしゃがみこんでギリギリ聞こえる内緒話を始めた桜夜と凛名に、流れ弾に当たった時雨は全力で叫ぶ。
すると、
「じゃあさ~ぁ?自分でハッキリ言うべきじゃな~ぃ?」
「あ、それ、スッキリするかも」
「そうかも、しれませんね」
時雨の抗議に反応した熊切の発言に、桜夜と凛名が立ち上がって冷や汗を流す少年に詰め寄る。事態の展開についていけない時雨を、しかし3人の女が問い詰める。
「それで~ぇ?シーくんのドストライクな女の子って、どんな娘なの~ぉ?当然、若い娘よね~ぇ?」
「べ、別に私、ア、アンタにいじめられるの、嫌いじゃないからっ!」
「し、時雨さんがそうしろっていうなら、私基本、下着Yシャツ黒ニーハイで過ごします、けど?」
「お、俺の、タイプ?」
ゴチャゴチャといっぺんに喋られた個々の主張が、時雨に彼女らの言いたいをなんとか把握させる。だからこの場を穏便に収める答え、つまり〔この場で出されたお題を敢えて避ける答え〕を、時雨は混乱しながら選んで言った。
つまり、
「俺の、好みは・・・えっと、黒、髪で・・・」
桜色の髪の桜夜と銀髪の凛名、赤い髪の熊切の娘を、上手くその答えで除外。
次いで、
「目が、こう、吊り気味で・・・」
同様に、3者の候補者が当てはまらない言葉を時雨は選ぶ。見つめる3人の顔のそれぞれに、落胆や苦悩が浮かぶのがわかるが、誰かを贔屓すると誰かに責められるとわかっているので、仕方なくそうする。
そして最後に少年は、
「あと、口調が、男みたいなのが、いい・・・かも。仲が良すぎて皮肉とか嫌味とか普通に言い合える、そういうヤツがいい・・・のか?」
と、曖昧に続けた。
だから、
バタン!
そんな音を立てて、倉庫の扉が開き、
「やっとたどり着いたぞ。いや参った、ここは複雑過ぎて、流石の私も迷ってしまった。というか、そもそも迎えにくるべきではないか?英雄探偵殿よ?」
男のような口調の吊り眼の長い黒髪、絶薙大和が皮肉なセリフで現れた瞬間、
「「「お前かああああああああああああああああああああああああああ!?」」」
「ん?」
叫んだ3人と凛々しい眉を怪訝に寄せた大和を見て、時雨は数秒気を失った。