ち~ぃ?
「だ、だから!さっき紹介しただろうが!?左に立ってるのが俺の幼馴染で、潜在能力なら俺以上の探偵見習、〔天出雲探偵事務所〕の副所長の朝霧桜夜!そんで、右に立ってるのが俺の従妹で、捜査対象者の断片情報感情移入術をマスターした天出雲凛子だよっ!」
時雨は、熊切の押し付けてくる爆なる乳から無理やり顔を逸らして、背後に立つ2人の少女を目線で示して叫ぶ。しかし、助けを求める目で見つめたはずだというのに、光景を見た桜夜の眉尻は吊り上り、八の字眉がスタンダードだった凛名が睨むような三白眼を作っていて、共に少年の胸に意味不明な罪悪感を生んで刺さる。今のところ、この場で自分から悪事に手を染めたわけではないというのに、思わず目を逸らしてしまうほど、背後の少女達の視線が痛い。
それを自らの赤茶の眼で見て知っていてなお、
「そ~ぉいう意味じゃないのよ~ぉ。だ~ぁって、おかしくない?こんなイイ娘達が、私の娘を含めたら3人も、シーくんのとこにいるなんて~ぇ?アレなの~ぉ?英雄探偵だからって~ぇ、英雄並みの漁食も許されてると思ってる~ぅ?」
「ち、違うって!ホント、ホントにやめてくれよ、熊切さん!?」
しどろもどろになる時雨が楽しいのか、背後の少女の剣呑な気配を敢えて無視して熊切刑事は身をスリスリと寄せる。ついには我慢出来なくなった桜夜が、先程の冷静さと打って変わった感情的な怒声で叫ぶ。
「熊さん!?幾ら熊さんでも、それ以上やったら本気でジワジワいじめますよ!?飛鳥ちゃんにあることあること吹き込んで、ついこの間私と一緒に呑み過ぎて吐くわチビるわ大騒ぎの件チクるよ!?」
「う~わ~ぁ、それは勘弁して欲しいかな~ぁ?」
桜夜の一言で、熊切が時雨からパッと手を離して解放。少年は赤い顔で窒息寸前の状態からゼイゼイと呼吸を繰り返す。
しかし、
「でも~ぉ、実際2人も気になるんでしょ~ぉ?シーくんのぉ、タ、イ、プ?」
「おい、ちょっ・・・!?」
時雨の首に、背後から圧し掛かるように乳、全体重を預けた熊切が両腕で絡む。眼前の少女達、図星を突かれた桜夜と凛名が戸惑う顔が見えるが、時雨にはその意味がわからない。
だから、
「でもま~ぁ、2人もシーくんの好きな要素、確かにあるのよね~ぇ?」
時雨は背後から圧し掛かった熊切の右手が桜夜を指し、勝手に好きな女性のタイプ診断をされるのを止められない。
指先を突き付けられ、どこか緊張した面持ちの桜夜に熊切が告げる。
「まず~ぅ、シーくんは基本ドSだから~ぁ、ドMのサクちゃんと相性いいでしょ~ぉ?」
「ちょ、誰が!?」
熊切の唐突な指摘に、一気に顔を真っ赤にした桜夜が怒りも露わに怒鳴る。
しかし、
「え~ぇ?だって~ぇ、幼馴染で~ぇ、もう安心感しか残ってなくて~ぇ、でもこんな腐れ毒舌男の側で我慢出来るってことは~ぁ、〔そうされるの気持ちいいから〕でしょ~ぉ?」
「嘘!?嘘よ!?そんな、私っ!?言われてみると、確かに苛められるの嫌じゃない!でも、そんな、確かに夢の中に出てくる時雨は、私をゴミかウジのような目であああああああ!?」
「桜夜さんっ!?」
「桜夜!?」
熊切の指摘で、桜夜がガクリと膝を追って倉庫の床に崩れる。
次いで、その光景だけでは飽き足りないのか、叫んだ時雨の前で、同じく叫んで桜夜に寄り添った凛名に熊切の指先が向く。
「アナタは~ぁ、今日初対面だけど~ぉ、シーくんの好きそうな、3歩後ろから付いてくる女的な~ぁ、古き良き奥ゆかしさを感じたわ~ぁ、天出雲凛子ちゃん?サクちゃんがシーくんの彼女じゃないって聞いた時も、妙に嬉しそうだったわよね~ぇ?」
「わ、私は・・・!」
オフモードの熊切の口撃に恐れをなした凛名が、小さな身体をさらに小さくして身構える。
しかし、
「その分だと~ぉ、多分奥ゆかしい女の男殺しの凶器、得意の手料理で、料理好きのシーくんの舌と胃袋を捕まえた~ぁ?」
「そん、私、ちが・・・!?」
「それに~ぃ?」
熊切は、この若さで伊達に男社会の警察機関で現場監督などやってはいない。驚異的な洞察力と観察力、女の勘と経験が、無駄な威力を発揮して凛名を追い詰める。
つまり、
「実はもう~ぅ、そんな大人しそうな顔して、シーくんの寝込みを襲ってたりしない~ぃ?セクシーな下着と、例えばアホなYシャツ1枚で、さらには今履いてるニーハイソックスの複合技とかで~ぇ?あ~らぁ、サクちゃんと知り合いなのに、隙を伺って男を横からかっさらう女狐なの~ぉ?」
「わ、私・・・」
「凛子!?」
桜夜を介抱していた凛名が、熊切のその一言で床に崩れ落ちる。
そして、
「ち・・・」
「ち~ぃ?」
熊切の執拗な尋問に、
「違い・・・ません」
「違わないの!?」
「バカ否定しろお前腐れバカっ!」
頽れていた桜夜と時雨が思わず叫ぶ答えが、あまりにも今朝の状況に近い指摘を受けた凛名の口から漏れた。