桜色本気モード
「そういえば、結構久しぶりね?前に会ったのは、〔死神怪盗〕の1件以来?」
「そうですね。まああの時は結局本命不在、ただの模倣犯による腐れ事件でしたけど」
「あの時協力を頼んだけれど、〔アレ〕には出会わないほうがいいと思うよ?ラッキーラッキー」
3人の少年少女達を先導するように歩く刀傷の女刑事、ロングの茶髪を揺らす熊切美玲の質問に応えながら、時雨は昼の日差しに照らされた狭い廊下を進む。少年の背後には、先程から不機嫌に眉を吊り上げた桜夜と、その様子にオドオドしている茶髪のウィッグに蒼眼のカラーコンタクトをした凛名がいる
背後の2人を構わず、時雨はドンドンと署内の奥へと向かう熊切に聞く。
「随分、捜査本部から離れた部屋に行くんですね?やはり、AVADONの介入の影響が?」「元々ウチの連中は頭固いからね。そもそも、私が和馬くんや君と様々な捜査で協力関係にあり、おかげで私が実績上げてるのも気に入らない。それが男社会の男心みたいよ?だから・・・」
熊切は、答えながら小さな扉、どうやら倉庫であるらしい部屋のドアを開く。中に時雨、場所の異質さに戸惑いを隠せない桜夜と凛名を通し、後ろ手に女刑事が扉を閉める。
疑問に耐えきれなくなったのか、桜夜が口を開く。
「あの、どうして倉庫なんですか?確か熊さん、時雨とこれからの捜索の調整のはずじゃ?」
「うん。桜夜ちゃんの疑問はもっともね」
まだ明るいと言うのに照明を点け、段ボールと資材棚の並ぶ部屋の奥、小さな窓のカーテンに手をかけた熊切は、背を向けたまま時雨に問う。
「まず、現状を整理しましょうか。時雨くん?」
「はい」
時雨は、聞かれるだろうと思い、用意していた答えを口にする。
「ここにいるのは、現在届出中の〔天出雲探偵事務所〕の暫定所員です。所長である俺、天出雲時雨とその部下、朝霧桜夜と天出雲凛子は、〔この場において熊切刑事の指示に従います〕。もちろん、状況が我が事務所の手に負えないと判断した場合でも、守秘義務は守ります」
「うん、よろしい」
熊切は時雨の宣言、捜査協力における誓約口上を受け取ってから、カーテンを閉める。予め点けていた照明のおかげで室内が暗転することはないが、明らかに場の空気が変わったことを知り、時雨の背後に立った凛名の緊張が高まる。事前に〔天出雲探偵事務所の所員として振る舞うこと〕を頼んでいたとはいえ、ただの素人が、犯罪者を相手にする刑事の醸す雰囲気に呑まれるのは仕方ない。
ただし、
『大した奴だよ・・・』
それは、あくまで凛名だけであった。
なぜなら、時雨がそう評した少女、
「それで、どうして倉庫なんですか?時雨と、〔うちの所長〕との調整なら、他の捜査員と一緒に、会議室でも使って同時に意志疎通を図ったほうがいいんじゃないんですか?時雨から聞いてますけど、熊さんは現場指揮官ですよね?」
朝霧桜夜は、ただ端的にそう聞いたからだ。