ムッツリスケベと朝食を
「なるほど、お前は〔召喚型〕で、その毛玉はつまり心象獣だったってことか」
午前8時20分。
時雨は食卓で豆腐にタマネギ、油揚げとワカメが入った味噌汁を啜りながらそう言った。少年の左横の席に着いた少女、英星高校指定のすこぶるダサい小豆色のジャージ上下を着た凛名は、俯いて銀の髪に顔を隠したまま頷く。よくよく見ると、少女は首筋から耳まで、いまだ羞恥で赤い。そしてそんなことは気にならないのか、凛名の頭頂部にはミールと呼ばれた白と銀の小型竜が四肢と尻尾を丸めてくつろいでいる。
凛名が喋りそうにないので、時雨は鮭の切り身を箸でほぐしながら続ける。
「で、お前は昨晩寝る前に、その毛玉に頼んだ。日が昇ったら起こしてくれと。そもそも心象獣ってヤツは、使い手が無意識の状態であればあるほどより強い力を発揮する。つまり、お前が寝てる時にコイツは起きてるから、目覚ましにはちょうどいいってわけだ」
時雨が箸で白い毛玉を指すと、気づいた小型竜が牙を剥いて唸り、凛名が頷く。少年は軽く歯を剥いて小さな股間襲撃者を威嚇すると、次に食卓を見る。味噌汁に鮭の切り身の焼き魚、ほうれんそうの胡麻和えに卵焼き、炊き立ての白米とキュウリの浅漬けが並んでいる。
「で、お前はこうして朝食を準備してくれたわけだ。そしてだいたい準備が終わったから、今度は洗濯に移った。俺の服や桜夜から借りた服、自分で来ていたワンピースを、お前は洗った。しかし、そこで問題が起きた」
「・・・」
「お前は、今日着る予定だった服まで洗った。するとどうだ、手元にあったのは下着と俺の生乾きのYシャツと、黒のニーハイソックス。だから、ええっと・・・」
「・・・」
時雨自身、言っていて恥ずかしくなってきていた。眼前で食卓におでこが付きそうなほど会俯いた少女の痴態なスタイルが、脳裏で蘇るためだ。だが、さっきテンパりまくった少女から受けた説明では支離滅裂すぎて、状況がスッキリしない。
だから、時雨は言った。
「お前は、とりあえずそれを着て、そこで俺の悲鳴に飛び込んだと?」
「・・・ふぁい」
時雨は何気なさを装うために、卵焼きに箸を伸ばす。味噌汁、焼き魚と、料理好きな時雨の及第点を軽く超えてきた凛名の手料理で、脳内で再生される卑猥なイメージを誤魔化す。
しかし、時雨もキチンと聞いておきたいことがあった。
だから、卵焼きを飲み下した後1度咳払いをして、問う。
「朧。1つだけ、1つだけでいいから答えろ」
「・・・」
「お前は確か、昨日16歳だと言った。俺と同い年だと。だが・・・」
「・・・」
「お前、その年ですでに痴女・・・」
凛名の真っ赤な顔がガバリと上がって、叫ぶ。