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嘘だりゃあああああああああああああああ!?

 天井に向かって伸ばした自らの左手の薬指で、朝の光を受けた漆黒の指環が輝くのを時雨は見る。ぼんやりとしていた視界が、段々と焦点を合わせた蒼い瞳によって明瞭になる。



「ゆ・・・」



 時雨の乾いた喉が、その先を紡ごうとして、閉じられる。あまりにも不可思議で不可解で、しかし確かな感触を持った光景を、簡単に夢として判じ断じることは、時雨には出来なかった。

 なぜなら、



「時すら定める男。アイツなら、たとえ夢の中でも他人の記憶の中でも、ブレはしない」



 天出雲時定。自らの父親は、少なくともそんな男だった。

 だから、



「アレは夢じゃない。親父の話を信じるなら、アレは・・・」



 時雨は、父の話を信じるという前提で思考を進め、



「問題は、なぜ勝手に俺は、朧の内側に踏み込んだのか・・・か」



 のそりと、少年はベッドの横に敷いたマットレスから身を起こす。しかし、左を向いた視界の中、寝台の上に、件の少女の姿はない。再びパッと左手を広げ、時雨はそこに自らの能力を抑える指環があることを確認。そのまま視点を固定して、考える。



『そうだ。そもそも俺は、朧の近くにいると、様子がおかしくなっている。あの晩だって俺は、〔指環を外していないのに朧の声を聞いた〕。アレは、一体・・・』



 黙考する時雨の中では、疑問と問題が山積し続ける。しかし、航羽社製人型汎用重機・〔O.F.(オーバーフレーム)〕開発研究の第一人者であり、汚染素材や感染者能力に関する心界研究の分野で学士号をとった航羽雷音でも、時雨の能力と指環の存在は明確ではなかった。時雨のように強制発現するタイプは多くいるが、〔心を読む〕という症状は前例がないためだ。

 その上、



『この指環は、心界研究者の中でもあまりに前衛的過ぎて〔異才〕と呼ばれた親父と、世界に6匹しかいない〔純竜種〕の使い手である母さんの合作だ。そして、俺はただの探偵・・・』



 時雨の手の中には、あまりにも状況を論理的に解決出来る材料が少なかった。

 だから、



「ああ、そうさ」



 少年は、毛布をはぎ取って、顔を上げる。

 そして、



「見つければ、済む話だ」



 険しいシワを眉間に刻み、鋭い三白眼で朝日の差し込むベランダを睨む。

 だからこそ、



「ガアウ」

「・・・あ?」



 時雨は、はぎ取った毛布の下、ちょうど股間の辺りにいたそれ。



「ガアウ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ?」



 銀色の柔らかな翼。

 羽毛に覆われた白無垢の丸い胴体。

 ウサギのような後ろ脚に、恐竜のような前足。

 そして、



「ガアウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!」

「ああああああああああああああああああああ!?」



 トカゲのような首と雷のごとき金色の角と緑の鬣を生やした頭。

 紫の瞳を持つ謎の生物。

 一般的には竜と呼ばれるそれに、ガッツリガブリと噛みつかれたことに、気づくのが遅れた。

 さらには、



「ぐ、ほあ!?や、やめろ!テメェどこから入った!?一体!?」



 などと、時雨が謎竜を股間から引きはがそうと両手でつかむと、



「グウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!」

「や、やめろ!?ちぎ、ちぎれごおほぎゃあああああああああああああああああ!」



 小さな侵入者が、チンピラや強攻殲滅部隊・〔AVADON〕の大和、〔自然派〕のテロリストに襲われても悲鳴を上げなかった時雨を悶絶させる。

 すると、



「し、時雨さんっ!?」

「お、朧っ!?」



 時雨の悲鳴を聞きつけて、寝室の扉がバカンと音を立てて開く。同時に飛び込んできた銀色の髪の少女の姿を見つけて、急所を重点攻撃されている時雨はその名を叫ぶ。

 しかし、



「ミ、ミール!?ダメ、時雨さんはガブっちゃダメ!」

「おぼ、ろ・・・?」

「え・・・?」



 時雨の股間を強襲する謎の生物に飛びかかった凛名の姿を見て、時雨は唖然とした声を上げる。驚きの成分が多い少年の声に、かなり慌てていたらしい少女は、ミールと呼ばれた小型の竜を両手に捕えて引き剥がした後に視線を上げる。

 だから、



「お、前・・・それ・・・」



 時雨は、なぜだか震える右手の人差し指を持ち上げて泳ぎそうになる瞳で少女を見る。



「あ・・・」



 なぜかブカブカのYシャツを着た凛名が、少年が凝視する自らの姿を眺める。時雨の正面には、重力に引かれた白く柔らかい魅惑の谷間があり、それを覆って薄青い下着が見えている。さらにその先、Yシャツのトンネルを過ぎた先には、これまたなぜか膝の上まである黒のニーハイソックスに覆われた華奢な2本の脚が八の字型に広がっている。そしてその付け根には、胸を覆う下着と同じ、薄青い逆三角形の姿が明確かつ鮮烈にあった。

 蒼い瞳で凝視する時雨は、なぜ少女がそんな痴態なスタイルでいるのかわからない。

 紫の瞳を上げて見つめ返す凛名は、首筋から耳まで真っ赤になるのを止められない。

 だから、



「ふう・・・」

「あ・・・え・・?」

「ふ、う・・・!」

「お、おい?」

「ふうわああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

「えええええええええええええええええええええええええええええええええ!?」



 少年は、少女が両手で振りかぶり、振り下ろした小型竜、



「嘘だりゃあああああああああああああああああああああああああああああ!?」



その牙にギッチリガキリと股間を噛まれて絶叫する。


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