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死と遊ぶ羅刹

「さてさて、吾輩、ここ数日退屈であった」



 ふざけた一人称と不遜な笑みの男、時雨が遊羅と呼んだ和装が裾と大刀の先端を揺らめかせる。その間合いへ、3体の蟻型の異獣が突進。黒い凶悪な下顎のギロチンが、左右から男の胴体、右脚、首を両断せんと迫る。

 しかし、



「ほう、雑兵ごときにも、力を協する知恵があるか」

『遊羅さん!?』



 男は、思考で叫ぶ時雨の視界の中で、〔ただまっとうに、その攻撃全てを身を持って受けた〕。そして、〔その柔肌に1mmたりとも喰いこまなかった自らの下顎〕を見て、蟻型異獣の赤い目が動揺に明滅する。

 しかし、



「吾輩の肉体は、普通に立って無意識に漏れる魂が浄化反応しているだけでも、頑強な症例である〔変心型(トランスタイプ)〕以上の強度があるのだが」



 存在としての格の違いを示した男が、無傷の首筋に触る光景よりも、



「嗚呼、やはり血一滴出ぬ。おいよ?」



 閃いた妖しい斬光、その軌跡が3体の異獣の硬い甲殻装甲を豆腐のように両断したことよりも、

 ただ、時雨は、



「吾輩を()かせられる者よ、どこぞおらぬか?」

『遊羅、さん・・・?』



 艶やか無邪気に笑う遊羅の言葉が信じられない。

 時雨は男のこんな姿を知らなかった。

 走り出した遊羅の背中が、動かない時雨の視界の中で、小さくなる。

 しかし、



「啼かせられぬなら、鳴いて叫べよ」



 右手の大刀を妖しい片翼のように従える男は止まらない。疾走の中で2体の蟻型が左右から遊羅を襲撃。しかし、斬撃と下駄による蹴撃で頭蓋を粉砕され、男は無傷。下駄で粉砕した方、右側から襲った蟻型の身体をそのまま駆けあがり、倒れる前に2階建の家屋ほどの高さの背から男が跳ぶ。



「鳴いて叫んで、助けを呼べよ」



 空中で身動きが取れないと見た蟻型がさらに3体、遊羅の右上のビル、左後方の路地、目下から跳躍。刹那の時間で下顎に〔界子〕が収束し、浄化反応が起きる。それに伴い、下顎の形状が円錐状に変化。横方向に回転。突貫力に特化した、3つの掘削ドリルとなって遊羅を襲う。



「嗚呼、鳴いて呼ばぬが貴様らの生き様かよ」



 空中という不確かな位置で、男は身体ごと刃を優美に一薙ぎする。ただそれだけの動作で、男はまず右上から飛翔した蟻を背後へと受け流す。左後方から跳躍した異獣の掘削ドリルを敢えて真正面から受け止める。自らの身体をさらに上空へと弾かせ、同時に最後に跳躍した蟻の突貫の軌道に、それを置き去る。左後方から跳躍した蟻の腹部に、直下から飛翔した蟻の掘削ドリルが激突。黒い体液を撒き散らす同士討ちが起きる。

 さらに、



「敢えて叫びを上げぬならよい。その誇りと共に、逝くがよいよい」



 中空の遊羅は、それを見て笑みを深める。

 大刀の一振りで、空中を奔る斬撃を一刀生み出す。

 ただその一振りで、同士討ちした2匹、その後方に着地した最初の1匹を鮮やかに屠る。

 光景に、フワリと宙を舞う男が問う。



「さあ、残る輩は何とする?」



 遊羅の言葉に、しかし異獣共は怯むことなく退かず進む。

 その様を見て、典雅な動作で初めて両の手で大刀の柄を握る。



「然らばおさらば」



 死と遊ぶ羅刹が、にんまりと笑う。

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