やああああああん!やあ!やあ!でやあ!せやあ!どおおおおおおりやあ!
「やああああああん!やあ!やあ!でやあ!せやあ!どおおおおおおりやあ!」
「おお!ぐほ!待て!桜夜!?そこは!?待てってぎゃああああああああ!?」
靴を脱いだ時雨は、悲鳴から怒声、無駄な抵抗から過激な制裁へと見事に移行した桜夜と、念入りに不埒な股間部分を狙い蹴りされる白虎を放置して廊下を進む。そこには予想通り、ハーフパンツに黒のパーカーを合わせた小柄な人物がテーブルについていた。時雨は、首にかかる程度の黄砂色の髪、頭にかけた高性能大型ヘッドフォンから漏れる音楽に身体を小さく揺らす後姿に声をかける。
「おい、雷音」
「え?あ、おかえり時雨くん」
小柄な体躯に似つかわしい童顔、黄金色の瞳を笑みに細めた航羽雷音が、時雨の呼びかけに応じてヘッドフォンを外し、細い両手で保持していた携帯情報端末と表示させていた3次元ディスプレイごと振り返る。付き合いはまだ1年ほどだったが、まだまともな方の友人に対し時雨は問う。
「今日は暇だったのか?」
「うん、バンプレートの実地試験はあらかた片付いたし。今はデータの検証。そこにガティさんが〔時雨くんの従妹〕が1人じゃ可哀そうだから、遊びに来ないかって」
ニコニコと無邪気に言った雷音の頬は、わずかに赤い。まだ確認していないが、時雨が帰宅するまでにほぼ全員出来上がっているらしく、よく見ると雷音の前には〔真説・鋼砕き〕と書かれた焼酎の瓶とコップがある。少し不安になって、時雨は問う。
「白虎は・・・」
「心配しなくても、白虎くんはこういう時、時雨くんが嫌がることはしない」
その言葉で時雨はガデティウスが心配の種である〔彼女〕のことを、全く事情を知らない桜夜には上手く誤魔化したこと、白虎と雷音も時雨の意を汲んで〔黙って嘘を事実〕にしてくれたとわかった。
だから、
「・・・悪い」
時雨は雷音から目を逸らしてそう言い、
「イイッテコトヨ。イイッテコトヨ」
もぞもぞと、笑う雷音のパーカーの帽子から出て来た銀色の影、8本の手足を蜘蛛のように操る少年の機械獣・〔リトル・バンプレート〕がそう応え、
「だってさ」
雷音は、また笑った。苦みの多い笑みを、時雨も返す。少なくとも、〔今日を限りに馬鹿な友人と彼女の繋がりを絶つ〕以外に、出遅れた自分が取れる手段がないと時雨は結論付ける。
そして、
「で?アイツは一体何を?」
「見てたらわかるよ」
時雨は先ほどからずっと音を立ていたキッチンに、ニコニコ笑顔の雷音と振り返る。
そこには、
「・・・へえ」
時雨にそんな感心の溜息を漏らさせるほど、長い銀の髪を楽しげに躍らせる少女、凛名がいた。