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オロロロロロ

 時雨の手が爆塵から伸びた瞬間、パーカーの両腕は予備の刃を取り出そうと動いている。

 しかし、



「〔天地闊法〕!」



 時雨のほうが、速い。掴まれた頭を引かれ、パーカーの顔面と時雨の右膝が激突。パーカーが反動で仰け反りそうになるのを、時雨は右腕で再度引き寄せる。軸足と頭を掴んだ右腕で強引に右足を引き絞り、パーカーの横っ腹へ薙ぎ払うような蹴りを入れる。パーカーの身体がくの字に折れ、吹き飛ぶ。

 しかし、



「うううう、気持ち悪いいいいいいいいい!」



 なぜか顔面が蒼白となった時雨は、軸足である左脚の踵、足首を使って独楽のように右回転。最も勢いが載ったところで、



「〔攻脚〕・〔螺旋砲〕!」



 左に飛んでいくパーカーの、さらに左から、回転した時雨の右脚が炸裂。くの字に折れていたパーカーの身体が、逆向きのくの字となって、骨と肉の鳴く音と共に吹き飛ぶ。路地に建つ壊れかけの家屋の壁に激突する。



「ガア、ハっ!?」



 それでも〔感染者〕たるパーカーは、ダメージこそあれ意識を保っていた。横たわったまま、パーカーは身体から光の粒子を舞い散らせながら、なぜか一転してヨロヨロと歩いて近づく時雨に装填し直したカッターを向ける。



「・・・斬んん!」



 光の粒子を纏ったカッターが、宙を舞う。対する時雨の蒼い瞳は、何かを堪えるように涙目で、飛来する脅威を見てもいない。口許とまだわずかに出血する腹部を手で押さえて、ヨロヨロとしているのだ。

 だというのに、



「・・・何!?」



 時雨はフラフラと、放たれた斬撃のことごとくを回避する。動きは最小限で、しかしゆっくりと。隙間を縫うように、しかし見もせずに。気づいた時には、カッターナイフの刃は大地に転がり、全ての斬撃は路地と家屋に傷をつけただけだった。

あまりの光景に、パーカーは思考を巡らせる。

そして、男は言った。


「どういうことだ?俺の斬撃は無差別全方位攻撃。俺には斬撃が当たらないようにコントロールしているし、それが弱点でもあるが、それでも絶対安全圏は俺の周囲1m程度。今コイツは安全圏にはいなかったはず。なのにどうして避けられる?見てもいなかったぞ?しかもなんか調子悪そうだし、と、お前は考えている」

「・・・何!?」



 そう、時雨がそう言ったのだ。パーカーの考えていたことを、一字一句間違えず、そのままに。結果として、パーカーは気づく。

 つまり、



「お前の腐れ魂なんて、覗きたくなかったよ」



 横たわったままのパーカーの腹部に、光の粒子を纏った時雨の左脚の踵がめり込む。先ほどとは比べ物にならない威力の蹴りにパーカーは悶絶。顔面蒼白の時雨が、引きつった不気味な笑みで見下ろす。先程までは黒い指環が嵌っていた左手が伸び、パーカーの顔を、左脚を載せたまま無理やり起こす。

 苦しげなパーカーに、時雨は宣言する。



「俺はな、いいか?探偵だ。こういう修羅場を、幾つも潜ってきた。だからな、俺は絶対に遺恨は残さないようにしてる。なぜか?俺達人間は、繋がりの中に愛や憎悪を生み出すからだ。どんな縁だろうと、ただの顔見知りだろうと、名前しか知らなくても、それは繋がりだ。そこには感情の生まれる余地がある」

「・・・苦!?」

「聞けよ、聞け、ちゃんとな。つまり俺が言いたいのは、きちんと繋がりを断たなければ人は関係し続けるってことだ。そしてどんな些細な縁であっても、それが小さな歪みになることがあるのはわかるだろ?ほら、ダムが小さな罅からぶっ壊れるみたいな?だからさ・・・」



 時雨は、話しの流れから顔色を失っていくパーカーを、蒼白な顔で笑って言った。



「消えてもらうぞ、この腐った世界から」



 時雨の左手がパーカーを開放。どさりと頭を落とした男へ、持ち上がった左脚が覆いかぶさる。首筋にあてられた時雨の左脚の踵が、パーカーの呼吸をジワジワと苦しくする。パーカーの鼓動が早くなり、恐怖に大きく瞳が見開かれる。生存本能が、無意識にパーカーの両手を時雨の左脚に向かわせる。

 しかし、



「心を読む症状の俺に、どんな手も通じるはずがない。だろ?」

「・・・泣!?」



 最後の抵抗も、その言葉で潰えた。

 そして、パーカーの意識が飛ぶ、寸前。



「う・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぷ」

「・・・?」



 時雨の顔色が、一際蒼くなる。朦朧とする意識の中、パーカーはそれを見ていた。

 すると、



「ウロロロロロオロロロロロロオロロロロロロロロロロロロロオロ!」

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああ・・・・・・・・・」



 時雨の口から胃の中のアレやコレやソレやが逆流し、必殺の流れとなってパーカーに顔面に溢れ、止めを刺した。

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