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朝霧桜夜とおっぱい獣人

 駆けつけた警察の事情聴取を終えて、〔強制的に決定した今後の状況〕を波崎と会議した時雨は、夕日に染まる警察署を出てやっと携帯端末に届いていたメールに気づいた。傍らに並んだ波崎に急用が出来たことを告げ、少年はすぐに住処である第2層へと向かった。電車と階層エレベーター、さらには航羽(こうばね)交通の無人(オート)タクシーを乗り継ぎ、午後7時34分、時雨は瀑布川沿いにある自宅アパートの前に到着した。暗闇の中で、時雨は立ちすくんでいた。

 なぜなら、



「やっぱりか・・・」



 時雨の前には、大和によって無惨に破壊されたはずのドアが、なかった。そこにはすでに新しい扉が嵌っており、周囲の景観と合わせるように塗装まで塗り替えられている。そして、扉の左下、そこに小さく書かれた落書きを時雨は見逃さない。



「〔惨状!サイクロンジャスティス!〕だと?ああ、確かに惨状だな」



 時雨は舌打ちを堪えて、やっとガデティウスが依頼した修理屋、〔真白工務店〕の馬鹿息子が直したドアノブに手を伸ばす。不用心なことに、ガチャリと音を立てて扉が開く。室内からは、灯りと数人分の嬌声。すでにかなりマズイ状況だと、時雨の脳は判断。

 だから、



「お~そ~うぃ~」



 時雨は、少年の帰宅にいち早く気づいて部屋の奥からフラフラと進んできた影の言葉に溜息をつく。眉間のシワを深くして、少年が説教を開始する。



「おい、いいか?確かに俺達感染者は、〔大地から黒い影となって漏れ出たあの世〕・〔心界(しんかい)〕の汚染により、本来なら肉体の外に漏れ出ることがない魂が変質して常に体外に漏れ出る。そのせいで寿命が短く、ついでに言えば、漏れ出た魂と結合・反応して、様々な現象を引き起こす粒子、〔界子(スフィア)〕のせいで魂の性質に伴う奇異な能力を持っている」

「うぅぃいいい~?」

「だから、おい、聞け。だからこそ、俺達は16歳で成人と認められる。汚染による感染者の増加つまり短命化、変質した生物群である異獣の人類侵攻、さらには唯一汚染を浄化できる〔界子〕が潤沢に供給される〔界子安定供給圏(スフィア・スポット)〕の絶対数が少ないことにより、世界の平均寿命が60代まで下がってしまったからだ。だがそれにしたって」

「ま~た~、も~、シギュレはうる~さい~」

「人の家に勝手に上り込んで、そんな出来上がるまで呑むか普通?おい、桜夜(さくや)?」



 時雨は、フラフラと開けられたチューハイの缶と未開封の缶ビールを揺らす少女、朝霧桜夜(あさぎりさくや)の赤く上気した顔を鬱陶しそうに睨む。

 しかし、



「エヘヘヘ~、エヘヘ~?」



チンピラ程度なら震えて逃げ出す鋭い蒼の眼光を受けても、肩まである桜色の癖っ毛を揺らし、藍色の瞳をフニャフニャした糸目にした酔いどれ少女には通じない。デニムのショートパンツから伸びた健康的な艶を持つ肌色の素足はおぼつかず、黄色のキャミソールを押し上げる強力な野郎破壊能力を持った双丘(チチ)が時雨の前で無邪気に揺れる。

 だから、



「おい・・・なぜコイツらを呼んだ、ガティ?ドアとガラス戸の修理なら他の業者でも良かったし、桜夜がいるってことは、馬鹿と二重人格もいるんだろ?」

「ソレガ最善カト」



 時雨は玄関に停めてあった大型単車、女性型人造意志を持つガデティウスの少し楽しげな返答に再び疲れた溜息。

 そんな時雨を励まそうとでも言うのか、



「とりあえず、呑、めっ!シギュレッ!?」

「ああ?」



 ホワホワと宙に浮きそうな桜夜が、左手が握っていた缶ビールを突き付ける。缶ビールと桜夜、視覚素子でこちらを伺うガデティウスを時雨の蒼い瞳が確認。不機嫌な三白眼は、肝心なことを聞いておく。



「ガティ?」

「ハイ。抜カリナク。〔凛名ハ家出シテキタアナタノ従妹デスシ、アノ後帰宅スルマデ、ココニイル方々以外彼女ノ顔ヲ見タ者ハイマセン〕」

「ああ、〔いい設定と状況だ〕。じゃあ、もういいや」



 時雨の手が、ひったくるように桜夜の左手の缶ビールを奪う。プルタブを鳴らして、一気に煽る。発泡酒の心地よいノドごしを味わい、瞬く間に空ける。ヤケクソ気味に眼を据わらせて、ゲップを1つ。少しはささくれ立った心が癒される。

 そして、



「やる~ぅ」

「うるせぇ。いいから中に入れろ」

「はいは~い」



 桜夜が後ろ歩きで場所を譲り、後ろ手に扉を閉めた時雨が靴を脱ごうと視線を下げた瞬間、


「乳乳乳乳乳乳乳乳乳乳乳乳乳乳乳乳乳乳乳乳乳乳乳乳乳乳乳乳乳乳(ちちちちちちちちちちちちちちちちちちちちちちちちちちちちちち)」

「あ、や・・・!?」



 顔を上げた時雨の前で、桜夜が固く目を閉じて身もだえする。両脇をしめて必死に抵抗するが、脇下から襲いかかった小麦色の両腕は、キャミソールの上から少女の胸を鷲掴みにしている。それぞれが別の意志でも持っているかのように、巨、もしくは爆なる乳をこよなく愛するおっぱい獣人の10本の指が、卑猥に少女のそれを撫でまわす。

 つまり、



「ここか?ここか!?ここかぁああ!?」

「ちょっ、馬鹿、ちが・・・あぅ!」

「ここだぁああああああああああああああああ!」

「おい、もう諦めたらから。この状況は諦めたから、せめて近所迷惑な大声やめろ」

「あ、やあああああああああああああああああああああああああああああああん!」

「聞けって・・・」



 げんなりする時雨の前には乳を揉みしごかれて頬を真っ赤にする幼馴染・桜夜と、作業ズボンを穿いたおっぱい獣人、黒のタンクトップに引き締まった小麦色の筋肉を隠す幼馴染・白虎がいた。



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