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ドオオオオオオオオオオオオオオオン!

「お前、絶薙!?さん!?宇宙からの電波を受信していないで、ちゃんとした地球の言語で会話に加わってくれねぇませんかね!」

「まあまあ時雨くん、そう青筋立てなくてもいいじゃあないか。冗談だよ、冗談。焦ることと、急ぐことは違う」



 思わずテーブルに身を乗り出して怒鳴った時雨の左肩に、タバコを持った波崎の右手が置かれる。糸のように細められている灰色の瞳から、一瞬で時雨を諌める意志の光。



「すみ、ません・・・」

「私からも、部下の失礼を謝ります。すみません」



 時雨は浮かせかけていた腰を下ろし、木箱に座り直す。立ち上がって大和に頭を下げた波崎が、再び座って時雨に囁く。



「気がたっていることを言い訳しなかったのは、良いことだね?でも、もう僕はいなくなる。フォロー出来るのも、これが最後かもしれないんだ」

「・・・すみません」



 時雨の怒りの炎が、タバコを燻らせる師の言葉で鎮火していく。眼前でなぜか東全獅に耳打ちしている大和の悪びれない態度は気に入らないが、波崎和馬が放った言葉の内包する重さに、時雨は意気消沈する。追い打ちのように、師たる男の口が開く。



「君は探偵として甘い。優しすぎるし、短気で性急で、口が悪くて態度も悪い。だけど君のそれは、義理堅さと青臭さと、人として見失ってはならないものが何かを理解しているからだと、僕は知っている。人の苦しみに気づき、慮り、救いの手を伸ばせる人間だと言うことだ」

「所、長・・・?」

「少なくとも君は、〔お互いに言いたくないことは聞かないし、能力を使って探ったりもしない〕という僕との〔約束〕を3年守った、信頼に足る人間だ。だからこそ、僕は思うんだ・・・」

「・・・?」



 そして、



「君はもう、〔何があっても大丈夫〕だと。なぜなら僕が鍛え、僕が誇り、僕が認めた1人の優秀な探偵、それが天出雲時雨だからね」



 時雨は、笑みに目を細めて放たれたその言葉に、深く傷つく。

 優秀な弟子と言わず、1人の探偵として名を呼んでくれた男への裏切りが、時雨の胸に苦痛を生む。普段ならこんなことは口が裂けても言わない間柄だったが、ほどなく訪れる離別が直属の上司を感傷的にしているのだと考える。自分の胸を満たす心地よい幸福感も、師と同じく気の迷いだと、思うことにする。

 だから、



「ハッ!よく言うな?腐れワカメのくせに?」

「まあまあ、小生意気な腐れ弟子のくせに、吠えるじゃあないか?」



 時雨はその苦しみを、いつものたわいないやり取りの中に隠す。そんな、簡単に(まこと)らしい嘘を吐き、人が紡ぐ優しい嘘を見抜く術を手に入れて、それが人として喜ぶべきことなのかは時雨にはわからない。

 だが、



『俺とこの人は、それでいい』



 時雨はそう思う。

 だからこそ、



「すみません、お二方」

「はい?」

「まあまあどうしました?東さん?」



 時雨は、



「この部屋に、爆弾が仕掛けられているようです」



 東全獅の言葉を聞き届けた瞬間、自分の視界が赤と白の爆轟、聴覚を一時的に喪失させる烈火の轟音に包まれたことに気づけなかった。


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