全部飲んでもいいんだからなあああ！？
奇声を上げる襲撃者の狙いが凛名なのか自分の前髪なのか、もはや何なのかわからなくなっていた時雨は、それでも簡単に馬の首でも落としかねない武骨なギロチンを受け流そうと、座席を背にしたまま両腕を使った受け流しを試みる。
しかし、
「え・・・？」
「何！？」
時雨が右手を動かしたことで、手錠に繋がる鎖が引かれた。結果、左手に鎖をつけた凛名が、繰り出されたハサミの殺傷圏へと細い首を曝す。凛名の呆気にとられた声と、凛名が死ねば問題ないはずなのに、なぜだか驚いた声を上げる大和。２人の声が、失策を興じた時雨の耳朶を打つ。
だから、
「全くよおおおおおおおおおおおおおおお！」
時雨の両脚が上がり、連動して跳ね上がった腰が、凛名の顔の前に出る。さらには首を支点に両足を直立させた時雨の両腕が、なぜだか躊躇ったように減衰したハサミの斬撃軌道に、二の腕を平行にした状態で飛び込む。右手のほうは、手錠の金具を前面に押し出す。
時雨の両掌と両肘、横腹にハサミがザクリと喰いこむ。
その瞬間、
「ぐ、おおおおお！」
時雨は腹に全力で力を入れる。力むことで膨張させた腹筋で刃を上下から圧迫して押しとどめ、両腕の肘の骨と掌底、砕けた手錠の金具で決死の対刃防御。こんなことなら昨日のうちに雷音が手を加えた〔天地闊法〕の戦闘衣、〔闊法着〕を着ているべきだったと後悔しながら耐える。外れた手錠を諦めて右手で刀を掴む。
すると、
「貴様、そこまで・・・」
時雨の身体に食い込んでいた刃が、驚くほど呆気なく引かれる。理由は不明だったが、時雨は好機と見て両膝を曲げ、首を支点に一気に溜めた力を解放、脚から大和へ跳躍。
そして、
「そこまで、ギザギザが嫌とは・・・！」
時雨は謎すぎる戦慄を顔に張りつけた脅威、大和の肩に両脚を絡ませる。大和が立ち直った時には、時雨の身体は普通とは逆の形の肩車、少女の正面に股関節が密着する状態になっている。凛名の能力を利用した奇襲に、大和が硬直。両腕でずぶ濡れの大和の頭を左右からガシリと鷲掴みにし、時雨は、
「後で合流する、ソイツを頼んだぞ、ガティ！？」
「了解」
「時雨、さん・・・？」
応えるガデティウスと惑う凛名に一度笑みを向け、密着した股間でワナワナと震えだした大和の頭頂部を両手で強く抑えつけて叫ぶ。
そうして、
「さあ、盛大に白濁でイクぜ！？全部飲んでもいいんだからなあああ！？」
「きょの、きょの、きしゃみゃあああああああああああああああああ！？」
「し、時雨さんっ！」
下劣な冗談を飛ばした時雨に引っ張られた少女、組みついた少年の股間でくぐもった叫びを上げた大和は、異形の天馬からバランスを崩して、２人は白濁した滝壺へと落ちる。
凛名の伸ばした手は、空を切った。
