ギザギザもらったああああああああああああ!
「フフフフフフフフ!フハハハハハハハハハハハ!」
「テ、メェ!?」
時雨は、凛名の強力な〔反射〕の能力でゆっくりと下降する単車の背後に、その影を見つける。すでに滝からは100m近く離れており、失敗すれば落差200mの落下衝撃で即死。万が一生き残っても滝つぼに呑まれて溺死するという現実を、軽く飛び越えてきた影を見上げる。
それは、
「しつこい女は嫌われるぞ!?腐れパッツンストーカー!?」
「フフフフ!吠えるがいい!涎を散らして吠えろよ探偵!私の勝利を呪って叫べ!」
全身を滝の水しぶきで濡らす、逆手弐刀を構えた少女、絶薙大和の威容だった。
だから、
「〔天地闊法〕!」
時雨は凛名の能力で軽くなった両脚を、ハンドルから座席に移した両腕で跳ね上げ、
「〔絶薙流・逆手弐刀〕!」
黒の襲撃者・大和は狭く不安定で凛名の能力下にある足場を無理やり旋回する。
そして、
「〔攻脚〕・〔風邪車〕!」
「〔蜷局華〕!」
破壊舞踊の技術を模す時雨の乱軌道・低空の回転蹴りと、大和の竜巻の凶刃が激突。大和よりは凛名の能力に慣れていた時雨の蹴りが刀の軌道を予測。その悉くを叩き落とす。
しかし、
「慌てて家を出すぎたな、英雄探偵!?」
「うるせぇ!テメェのせいだろ全部!」
「しししし、時雨さん!?」
旋回する大和の顔には、同等の技術を持つ者との戦闘に酔いしれる狂気の笑み。同時に、座席の上に仰向けになった時雨の弱点、急に飛び出したため剥き出しの素足を狙う純粋な戦闘者の合理がある。
そして、
「その前髪、ギザギザもらったあああああああああああああああああああああ!」
時雨の背筋を別の意味で戦慄させる恐るべきパッツン執念、髪型を馬鹿にされたことに対する個人的で強烈な恨みがそこにはあった。黒い暴風と化した少女の斬撃が、小さく、しかし確実に時雨の足を斬り削る。鮮血が舞い、時雨の動きがほんの僅か痛みに停滞する。
その瞬間、
「喰らえ!〔蛇鋏〕!」
両腕を交差させて構えた大和の逆手弐刀が、巨大なハサミとなって時雨の前髪に襲いかかる。