愛よりも黄金よりも
そう、
「だが、それでも俺達の勝ちだ!」
まだ、時雨には勝機があった。
それは足元を流れる川面、その終点にある。
「ふ、あ!ししししし、時雨さん時雨さんこれあれそれええええええ!?」
時雨の胸元でその光景を見、目を見開いた凛名が叫ぶ。
だから、
「聞け!お前は俺のために、命を捨てられる女だな!?だが、いいか!?命の重さを決めるのは他人だ!妬む者はお前を軽く見積もり、愛が深すぎる者はお前の価値を重くする!そして俺にとってお前はなあ!」
「・・・アアア、アナタに、とって!?」
時雨は一度息を吸い、狼狽える凛名に叫ぶ。
「お前の命は、愛よりも、そして黄金よりも重い!俺はその程度には、お前が欲しい!」
「そっ、そっ、そそそそ・・・!?」
「だからお前も決めろ!そして俺の命が、お前にとって救うべきものならば!」
時雨の右手が、昨晩と打って変わり、生命の血流に熱く火照った凛名の左手を強く握る。蒼い瞳が紫水晶のそれと出会い、先程橋から跳んだ時とは違う、自信に満ちた笑みを浮かべた少年が叫ぶ。
「捨てるはずだったその命!今この瞬間!俺のために燃やして尽くせよ!」
だから、
「は・・・」
少女は瞬きもせず少年を見つめ、
「は・・・!」
朧凛名は、頬を真っ赤に染めて、
「は・・・はいっ!」
この時ばかりは、少女の羞恥心は遮光モードのヘルメットを被っていたことに感謝する。まるで愛の告白のように熱く滾る時雨の言葉に、勘違いだとわかっていても、少女の心臓は鼓動が早まり、高鳴るのを止められない。
「そうは、行くかあああああああああああああ!」
時雨の背後で轟音。右脚が水に沈む前に左脚を踏み出す力技のアホ走法でこれまでにない速度で水面を爆走する少女、逆手に握る弐刀を振り回す絶薙大和が迫る。斬撃が、鮫の背びれのごとく水面を蹴立てて幾つも放たれ、必死に回避した時雨と凛名に水しぶきがかかる。
お互いの目指す先は、〔瀑布川〕の名前の由来そのもの。
炎点都市ヨロズの第2層から第1層へと落ちる、大現象。
白く粟立つ川の切れ目、巨大な虹のトンネルに、間一髪のところで異形の天馬が突っ込む。
つまり、
「テイク、オオオオオオオオオオオオオオオオオオオフ!」
「ふうう、わあああああああああああああああああああ!」
時雨と凛名は雄叫びを上げ、異形の天馬が赤い噴射炎を吐き、落差200mの大瀑布から大空へと飛び立つ。