凛名‐②
「ざけんな・・・ふざけんな!」
「え・・・?」
時雨は、湧き上がった激情、怒りと分類されたそれを、世界に放つ。
つまり、
「お前を拾った時から、わかってんだよ!なのに何だよテメェは!?俺が無駄だって、そう言いたいのか!?昨日のことも今日のことも諦めて、明日頑張ればいいってか!?〔俺の妄執に命を張ってくれた馬鹿野郎共の気持ち〕を、今ここで無駄にしろってのか!?」
「え、っと・・・?」
時雨は仲間という存在を大切にし、大切がゆえに危険な自分から遠ざけ、同時に、
「いいか!?お前は俺のモノだ!俺の拾いモノだ!警察に落しモノとして届けても、少なくともお前の1割は俺のモノになるんだ!それが法治国家のルールだ!」
「い、いつからそんな、私の知らない間に、そんな法律が・・・!?」
「お、う、真に受けるのかコイツ・・・まあいい!だからな!?いいか!?俺がお前の命を諦めるまで、テメェは諦めるのを許されない!そして!」
時雨が息を吸って、叫ぶ。
「俺はお前を諦めねぇぞ!?」
「!」
それは、計算などではなく、時雨の本心だった。だから、数瞬の間を置いて呆然としていた少女の紫水晶の瞳が潤み、瞳から滂沱と涙が流れ落ちようともフォローする術はない。たった今、いとも簡単に命を諦めようとした少女がその言葉に何を感じているのかは、時雨にはわからない。
ただ、1つのアイディアだけが少年の脳裏で閃く。
だから、
「よくわからないが、もう終わりでいいんだな?」
前方、30mまで迫った黒髪の少女に向かって、時雨は、
「ああ、終わりだ」
奇妙な表情、冷や汗を流した不敵な笑みでそう宣言し、
「なあ、お前、名前は?」
「え、え・・・?」
「名前だよ」
小さく、胸元に抱く翼持つ少女に囁き、
そして、
「お、朧・・・凛名、です」
「よし。凛名?いいか、聞けよ、聞き逃すな?いいな?」
「は、い・・・?」
時雨は、
「飛おおおおおおおおおおおおおおおべええええええええええええええええええいぃいいいいいい!」
「はひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?」
「何いいいいいい!?」
叫びと同時に単車を急旋回、白煙と轟音の最大加速で、高架橋の割れ目から瀑布川へと躍り出た。