ホットパンツな侵入者
「どういうことだガティ?なぜ呼び鈴を鳴らされるまで気づかなかった?」
「私ハ普段カラ、ココヘ接近スル人物、新聞屋カラ牛乳ノ配達員、郵便局員ヤ、ソノ他ノ顔見知リハ、外的観測生体データヲ登録シテイマス。シカシ・・・」
「つまり、お前のデータにない人物。普段の俺とは無関係な人物で、しかも最悪なのは、ソイツは〔雷音が付けてくれたお前の索敵能力に引っかからない異分子〕ってことか?」
「ハイ。オソラクハ・・・」
「昨日の、赤い光線野郎の仲間か・・・?」
「あああ、あのっ!?よ、よくわかりませんけれど、じ、自分でヘルメット被りますっ!かかか、被りますから、そんな、綿アメみたいにグルングルン髪を無理やりっ!」
ビビビビビビ!
2回目の呼び出し音が鳴った時、小声で交わしていた3人の周囲から音が消える。時雨とガデティウスが醸し出す緊張にあてられて、眉尻を下げた少女もヘルメットの中で息を呑んで音を殺す。
フッと訪れる、無音。
そして、
シュガッ!
3人が見つめる玄関の扉から、異音。
次いで、
ズダン!
と、轟音を立てて扉が×字に斬り裂かれ、蝶番が繋がる右側面部分を残して扉が地面に落ちる。ベランダから差し込む朝日が、無粋な侵入者の影を映す。時雨の背筋を、悪寒が走る。
「見つけたぞ」
時雨の蒼い視線の先で、侵入者、長い黒髪の先端を切りそろえた少女は、時雨たちを見て刃の笑みでそう言った。両手が逆手に握るのは、一目で業物とわかる妖光を放つ、鍔のない日本刀。腕を捲った黒のジャケットと黒のシャツ。ホットパンツから伸びるしなやかな白い脚の先は、靴底に鋲を打ちこんだこれまた黒の戦闘用ブーツ。
そして、
「ガアアアアティイイイイイ!」
この3年で、それなりに危険な状況を潜り抜けてきた時雨に、思わずそう叫ばせるほどの鬼気を、黒の少女は纏い、放っていた。
そして、中空から単車のハンドルを右手だけで掴んだ時雨が、この状況下で瞬時に思ったのは3つ。
1つ目は、銀色の髪の少女、父親と面識にある少女に、ヘルメットを被せておいてよかったということ。ヘルメットは少女の身の安全性を高めるだけでなく、全面を遮光モードにすることで、〔たとえこの後時雨と連れ立って外に出ても、彼女の素性を隠してくれる〕。
2つ目は、今度こそ、自分一人で状況を片付けるという決意。
3つ目は、「ああ、これ、〔割ったら〕後で絶対弁償だよな」、という家計への心配。
つまり、
「うおおおおおおおおおお!」
「はうわああああああああ!?」
時雨は、右手で全開にしたアクセル、左手で鎖で繋がる有翼銀髪の少女を連れて、ベランダのガラス戸を突き破った。