スーハー呼吸人とエマージェンシー
「いいか!?聞け!?いいか!?出来るぞ、お前なら!俺は知っているんだ!お前はサイクロンジェット式掃除機並の吸気と、同時にガデティウスの3000ccという大排気量を超える排気が出来るんだ!お前はそれで何度もこの薄汚れた地球の大気を吸くってきただろ!」
「ふぇ、ぐ・・・!?」
「思い出せ!?その呼吸の名を!秘密の一族に一子相伝で受け継がれない、至極普通の呼吸法を!怒りだ!不甲斐ない自分に怒ることが、力を目覚めさせる!さあ、魅せてくれ俺に!なぜならお前は世界を吸くう、スーハー呼吸人だろ!?ホラ、スーだよ!スゥウウウウウウ!」
「・・・スゥウゥウウウウゥウウウウウウウウ」
そこでやっと、翼を生やした少女は肩で大きく息を吸った。次いで、吐く。繰り返すうちに次第に頬に赤みが戻り、始めは貪るようだった荒い呼吸が安定していく。眼前で銀色の頭頂部を見せる俯いた顔に、時雨は恐る恐る問いかける。
「大、丈夫か?」
「・・・すすす、すみません、わた、私」
呟いた少女の顔が、上がる。涙目になった紫水晶の瞳がチラリチラリと時雨を伺い、困ったように下がった眉尻が臆病な小動物のような印象を時雨に与える。
時雨はだから、努めて静かな口調で聞いた。
「じゃあ、降りられるか?」
しかし、
「あああ、あの、すみません。これ、私、落ち着かないと、解除出来なくて」
消え入るような小声で少女がそう言う。軽く溜息をついて、時雨は右手で頭を掻く。
「あ~、じゃあ、少し待つしか・・・」
時雨がそう言った、瞬間。
ビビビビビビビ!
「時雨!」
それは玄関の呼び出し音と、周辺を索敵していたガデティウスの状況変化を告げる声。そして、時雨を大いに慌てさせる音の群れだった。中空から玄関を振り返り、戻ってきた時雨の焦りの形相に、胸元で手を合わせていた少女がビクリと反応。
「あああ、あの・・・?」
「ガティ!?」
「了解」
少女の疑問には答えず、声を抑えて叫んだ時雨に従って玄関から静音モードで起動したガデティウスのエンジン音が近づく。寝室に入ってきたガデティウスの「コレハ、マタ・・・」という状況に対する驚きの声を無視して、中空の時雨はガデティウスの座席に載ったヘルメットを右手を伸ばして取る。
少女の銀髪を左手に掴んでまとめながら、時雨はガデティウスに小声で聞く。