ウンニュ?いいえ、うんにゅ?
そこには、朝日を浴びて銀河のように輝く、ウェーブのかかった長い銀色の髪を広げる、無防備な眠り姫がいた。身を包む白いワンピースから伸びるのは、女だとしても細く華奢な白い肌の手足。元々小柄な少女はそれらを猫のように丸めて小さくなっており、規則的な呼吸を時雨の耳に届ける。
時雨が振り返ったことに刺激されたのか、少女が身じろぎし、
「うんにゅ」
「あ・・・」
小さくそう呟いて、自らの長い銀髪を口に咥え、モサモサと咀嚼し始める。頬には僅かに桜色の上気。どんな夢を見ているのか、どこか満足げな、緩い笑顔が少女を彩る。ふんわりと揺れた少女の髪から甘い香気が漂い、時雨の周囲を漂う。
ほんの僅かの時間、思わず魅入り、見開かれた時雨の蒼い瞳はその光景から離れない。自分の口が、間抜けな声を出していたことにも気づかない。ただ、少しばかり顔が熱い。そう思った時、時雨の視界にそれが映る。
それは、身じろぎしたことで寄せられた、思いのほか豊かな少女の胸と胸の間に出来た断崖。
探偵らしく観察眼と記憶力に優れた時雨の蒼い瞳が、瞬間、野郎の桃色本能に染まる。
時雨の男脳の評価では、最高評価をAとして、〔瑞々しさ、A!視覚による予測弾力、A!不自然な姿勢における形状保持力、A!桜夜以下だが、体積と肢体からの計測によりサイズCは確定いいいっや!〕という乳結論が無意識かつ不謹慎かつ瞬時に導かれる。
「時雨?何カ異常ガ?」
時雨はガデティウスの声に大いに慌て、叫んだ。
「ハッ!?異常だと!?馬鹿な!俺は〔運命の相手〕しか目に入らない、愛に盲目に正道な男だぞ!?しかし確かに俺も本命ではない者の持つ雰囲気や魅惑的かつ神的なそのなんというか双丘!?」
「双丘?」
「そう!その造形美に惑うことがあるんだ!だがそれも正常な男の反応で、女はそれを不誠実と言うが、いいか!?長く辛く卑猥な本能の男歴史が証明している!つまり、それでも男は見てしまう!」
「時雨・・・?」
「いや、違う!聞け!聞けよ!?いいか!?どうしても、不可抗力というものはある!それに、不意で動くものに、男いや人間いや生物は反応してしまうだろう!?だからこそ、俺に非はない!誓って!神など信じない俺は、今ここにお腐れ神の存在を認め、つまり創造主に全ての責任を押し付けることを表明する!」
「アア、時雨。ツマリ、アナタノ経歴ニ、婦女誘拐ニ加エ、覗キモ加ワルワケデスネ?デハ私モ、適切ナ判断ヲ下シマス」
「おおい待て!?桜夜は関係ない!チクリは優等生と学級委員の特権だぞ!?」
時雨はだから、怪訝な声を出すガデティウスに言い訳することに必死で、
「・・・うん、にゅ?」
「つま、り・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん、にゅ?」
「ウン、ニュ?」
少女が奇妙な声を出し、ゆっくりと深い紫水晶の瞳を開いたことに気づくのが遅れた。