航羽雷音と真白虎丸
時雨の後方には、黄色のラインがペイントされ、黒い金属で擬似筋肉を装甲された、全長6mの人型の巨人がいた。二階建ての家屋ほどの身長を持つそれは〔O.F.(オーバーフレーム)〕と呼ばれる、汎用人型重機の姿。その上時雨の知識は、後方から両脚の地上走行車輪と背面のスラスターで追跡してくる細身に鋭角なシルエットが、世界的規模で事業展開する日系複合企業、航羽社製最新鋭機、XJJ―2N〔バンプレート〕だと知っている。
そして、
「ええっとね、今日は〔これ〕の試運転だったんだ。白虎くんも友人枠で見学で、スラムの無人街を借りてたのさ。で、なんか時雨くんが短い間だったけど能力使ったみたいだから、早めに切り上げて、一番速いコイツで様子見に」
「様子見って、お前、これお前の会社の機密じゃ、いくら開発主任で御曹司でも・・・」
「ああ、大丈夫。映像も写真も、記録に残せないように、光学妨害から通信妨害、測距、音響、界子妨害まで全起動中だから」
「そ、そこまでして俺の安否の確認を・・・?」
「え?当然じゃない?」
桜夜との通話が切れたり、目的の人物までの測距が不可能だったりした理由が、時雨の目の前で黄色いバイザー型のアイセンサーを光らせて楽しげにそう言った。機密機体を使用してまで様子を見に来る〔友人過度心配性〕の少年、航羽雷音の職権乱用に頭を抱えそうになる。
その上、
「あと、周辺状況や時雨くんの行動から、君の目的もわかってる。だから、手伝うよ」
「ちょっと待て、俺はお前たちの手伝いだけは・・・!」
「おお!?何だよ!?いい加減にしろお前ら泣くぞ俺泣くぞコラ寂しいぞコラああぁぁぁ!」
問答無用で、時雨のヘルメットのバイザー、巨人の手に載る少年の前に、巨人のパイロットである雷音という少年が送りつけた動画が表示される。
そして、
「乗った!いいぜ!人助け!これ正義!」
「お前は黙ってろ白虎!そして雷音!?確かにいい案だが、白虎に俺とは違う、アニメでヒロイックで状況に似てるようで似てない嘘動画を送ったな!?」
「いや、そのほうが白虎くんの理解を促進させ、脳を活性化させるかなって」
ごく短い作戦説明の動画を見た、巨人の掌の上の小麦色の肌の少年が叫び、時雨が激昂し、雷音が暗に掌の上で緑のロングマフラーを風に靡かせる友人を馬鹿と呼ぶ。
しかし、白い髪を逆立たせ、悪戯っ子の笑みを明るいエメラルド色の瞳に宿した少年、時雨と同じ英星高校のブレザーを着た真白虎丸の目に迷いはなかった。
大きく息を吸い、白虎とアダ名された顔面にタイヤ痕の残る少年は巨人の手の上で奇妙なポーズとり、叫んだ。
「うるせぇ!俺は行くぜ!俺は正義の味方だからな!」
さらには、雷音も解放された外部音声を通して勝手に話を進める。
「往年の日本人メジャーリーガーの投球フォームをトレース。関節可動域、問題ナシ。次いで全妨害解除。目標捕捉。落下時間算出。距離、角度、速度計算完了。航羽雷音、第2人格・デルタを起床させる!デスメタル系バンド〔ガタック〕のニューアルバムから〔グロック〕を無限リピートに設定!」
「や、やめろ馬鹿共!いいか!?俺の話を・・・!」
時雨の叫びは、無情にも2人の少年には届かない。
そして、
「おおおお!変心!」
「ミュージック、スタート!」
否応なく、状況は開始する。