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敗北と反逆

 しばし、春の陽光と温かさを増した風が吹き込む病室のベッドで沈黙していた時雨は、



「どう、なった?」



 揺れる黒髪を揺らして窓辺に立ち、腕を組んで待っていた大和にそう聞いた。戦女神のごとく凛々しい黒瞳を小首を傾げて窓外に向けていた少女が、珍しく労わる色の声で質問を返す。

 しかし、



「どこまで覚えている?」

「要塞を落として、桜夜と白虎、ガティと雷音のバンプレートを見たとこまでだ」

「フム。まず、彼らは無事だ。今日は4月の終わりの週末で、学校も休み。連絡しておいたから、すぐにここへ来るだろう」



 時雨は、返ってきた大和の答えにすでに苛立っていた。彼女の言葉は、時雨が欲しい言葉であり、しかし少年が欲しい真実ではなかったからだ。

 だから、



「大事なところを隠すなよ」

「・・・」



 時雨は大和がこちらを気遣ってそうしていること、不器用な彼女なりに、ゆっくりと、少しずつ、少年の心身を慮って話を進めていることを拒絶する。

 つまり、



「答えろ。凛名は、どこだよ?」

「・・・」



 時雨は、蒼い瞳の直視で、大和に真実を求める。

 だから、



「彼女は、我ら〔AVADON〕の保護下にある」

「!」



 大和と言う少女は、シンプルな言葉の一刀を持って、少年に事実を突き付ける。大和の黒い瞳、嘘をついてはいないとわかるまっすぐな眼差しを受けて、時雨は思わず息を呑む。

 なぜなら、



「・・・俺、は」



 時雨は、負けたのだ。

 太腿の上で強く握る、漆黒の指環の嵌る左手は、ついに何も掴めはしなかったのだ。

 それを突きつけられて、その上で、おそらくは今回の一件の重要参考人である時雨の監視役であると判断出来る大和の視線を睨み返す力は、少年にはなかった。ただ無力感と脱力感だけが、友を危険に曝しただけの時雨の中に残る。

 だからこそ、



「何か、勘違いしていないか?」

「え・・・?」



 時雨は、不思議そうにこちらを見つめる大和に、ゆっくりと顔を上げた。戸惑いに揺れる蒼い瞳に、大和は気づいたようにクスリと微笑する。



「ああ、違うのだ。私が心配していたのは、〔お前が負けたという事実を受け止めきれないこと〕ではない。〔これからの私達のこと〕なのだ。貴様がどうするかはわかっているつもりだが、この顛末だ。貴様が納得してくれるかどうかが、とても心配だ」

「何、何を、言って・・・?」



 大和の話の展開についていけなくて、時雨は呆然とそう問い返す。そんな時雨の様子がおかしいのか、はたまた愛しいのか、これまた珍しく優しく細めた黒瞳で大和がもう一度言う。



「だから言っただろう?〔朧凛名は、AVADONが保護している〕と」

「だから、つまりそれは政府が・・・」

「違うな。大きく違う。つまり我々の隊長は、〔朧凛名を政府に引き渡してなどいない〕」

「どう、いう!?」



 事態の推移についていけず、時雨の声は思わず荒くなっていた。枯れた荒野のように、現状大和だけがもたらすことが出来る恵みの真実(みず)を食い入る視線で求める。

 それが嬉しいのか、大和の舌はよく回った。


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