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え、むしろ生なの!?

「嘘!?うわわわわわわわ!?」



 地上。ヨロズを取り巻くように広がるスラム街の廃れた大通りを、1台の蒼黒い大型単車(ネイキッドモデル)が疾走する。その座席の上で、携帯端末を片手に空を見上げていた桜夜がオタオタと叫ぶ。

 だから、



「回避シマス」



 単車に搭載された女性型人造意思、ガデティウスは、〔自動操縦モード〕とは思えないほど滑らかに、瓦礫やゴミで散らかった大通りをウネウネと蛇行する。

 瞬間、



 ドガガガガガガガガ!



 走行する単車の進路上に、一抱えはありそうな金属片が幾つも落ちる。万が一にでも直撃すれば桜夜もガデティウスもひとたまりもない、それは即死の驟雨。身体能力も人並であり、単車の運転免許も持っていない桜夜にはスラムのデコボコ道を走行するだけでもかなりの負担を伴う。その上に、文字通り降りかかる死の恐怖を、それでも桜夜は歯を食いしばり、ガデティウスにしがみついて耐える。胸に抱くようにした右手の携帯端末、動画撮影モードになっているそれを、必死で守る。

 しかし、



 ガバン!



 桜夜は、遥か頭上から響いた凶音に思わず顔を上げ、携帯端末のカメラを向けることも忘れてそれに見入る。桜夜の視線の先には、つい先ほど、絶薙大和という凶戦士が与えた超級の斬撃により、要塞化されたオオゾラクジラの外部装甲が剥がれ落ちる光景。先程から散発的に飛来していた破片とは違う、一塊と呼ぶのが相応しい、小さなビルほどもある装甲板が桜夜とガデティウスに向かってグルリグルリと回転しながら落ちてきた瞬間だった。

 それは、



「アア、避ケルノハ無理デス」

「嘘ぉ!?諦めるの早ぃガティ嘘ぉ!?」



 ガデティウスにアッサリとそう言わせるほど致命の規模と質量を持ち、桜夜が藍色の瞳をこれでもかと広げて錯乱させるのに十分な異様であった。

 ただし、



「ちょっと待って!?まだ私ここで何もしてないしまだ成人したばっかなんだよ!?死ぬの!?嘘よ!?私まだアイツに告ってないし!アイツと手すら繋いでもいないし!キスもしたかったけど、初めてだから優しくゴムを使っていじられながら耳元で囁いて欲しかった!?」

「桜夜ハ結構色々、時雨ニイヤラシイコトヲサレル妄想ヲシテイルノデスネ?」

「なんで!?避妊は大事でしょっ!?いや、でも子供は欲しいけど、え、むしろ生なの!?」



 座席の上で両手で頭を抱えて錯乱する桜夜に対し、その足となっているガデティウスは冷静だった。航羽社製の高性能レーダーを積んだ彼女の感覚野は、飛来する装甲板の背後から高速接近する彼の存在を確かに掴んでいたからだ。もちろん事前に彼に現在位置を教え、桜夜がピンチだと余計な一言を付け加えたのもガデティウスだった。

 つまり、



「サアアアアアアアアアアアアアイクロン!」



 新しく生成したエメラルド色のラインが奔る白い甲殻装甲を全身に纏った男が、緑のロングマフラーをはためかせて回転する装甲板に取りつき、



「メリィイイイイイイイイイ、ゴーオウラアアアアアアアアアアアアアアアンンド!」



 その回転を加速させるように、全身の装甲下から圧縮空気を噴出。巨大な装甲板と共に高速回転する。

 そして、



「どおおおおおおるうううううああああああああああああああ!」



 白い甲殻装甲の男、正義超人・真白虎丸は、



「・・・え?嘘でしょ?」



 桜夜に、呆けた声を上げさせて、



 ブンッ!



 と、小さなビルほどもある装甲板を、グインと背を逸らしたハンマー投げの要領で遥か彼方に放り投げた。走行中のガデティウスの座席の上から、桜夜は白虎が投げ飛ばした装甲板が近くを流れていた瀑布川に落ち、逆巻く滝となって爆裂したのを見る。

 そして、



「ガティ?」

「ハイ?」

「なんで早く言ってくれないのよ!?白虎が来てたなら怖くなかったじゃん!?」

「イエ、私的ニ、切羽詰マッタ桜夜ガ可愛イダロウト思ッテ・・・」

「可愛くないわっ!自分でも思い出したら引くくらい妄想の変態だったわっ!もうやだあ!」

「ゴ心配ナク。先程ノ桜夜ノ言動ト、エロキモカワイイ表情ヲ記録シタ動画データハ、最モセキュリティレベルノ高イ私ノ記憶領域ニ・・・」

「削除ではないのねっ!?そしてガティのことだからそれを私とアイツの関係のアシストにしたいのかもしれないけど、そんな変態動画、役に立ったらそもそも嫌だから!」



 桜夜とガデティウスが揉めている間に、飛翔しながら彼女達に近づいた白虎が叫んだ。



「おお!来たぞ!?」



 だから、



「桜夜!」

「桜夜、オ願イシマス」

「もう!わかってるよ!」



 桜夜は右手が持っていた携帯端末の動画撮影用カメラを、護衛についた白虎の指さす先に向ける。今は別班として同じく動画撮影を行っているだろう航羽社の御曹司が自ら手を加えてカスタムし、桜夜達友人全員に渡した高性能携帯端末のカメラは、オオゾラクジラの背から表皮を駆けてきた彼の姿を、ズームしても鮮明に映し出す。

 だからこそ、



「・・・っだ」

「桜夜?イッタイ・・・?」



桜夜は、黒銀の戦闘衣を翻す夜色の髪の少年と、彼に抱えられた銀翼の少女を見て、



「・・・2人とも、生きでる・・・よかっだ」

「・・・ハイ」



 途端に溢れた鼻水と涙混じりの声で、そう零した。



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