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フルスロットルでドッシャアア!

 時雨の見上げた空の先で、地上から斜め上に赤い光線が伸びあがった。光線は、時雨の視線の先、声の主がいるはずの上空へと消える。あまりにも一瞬の出来事で、観察眼に優れた時雨であっても声の主の居所を求めて目を凝らしていなければ見えないほどの遠方での光景だった。

 さらには時雨の背後で、赤黒い雲の群れ、〔黒爆雲〕の爆裂音が響く。

 その音が、声の主と赤い光線が交わったらしい、朧雲に煙る上空の一点で起きた小さな花火のような爆裂音と爆音を掻き消していく。



「爆発?航空機が?じゃあ、さっきの赤い光線は、攻撃?」

「一体、何が・・・しぐ・・・えてる?」

「桜夜?」

「し・・・れ・・・?」



 時雨が単車を横滑りさせて路肩に停車し、奇妙な声の出所を探ろうと改めて空を見上げた時、通話相手である桜夜の声が雑音に混じって完全に途切れた。手元に携帯端末を引き寄せた時雨の目には、スラムとはいえ都市の近隣では在りえない圏外の文字。

 時雨は、考えられる可能性を口にする。



通信妨害(ジャミング)?一体誰が?それに、さっきの声の野郎はどこだよ!?」

「時雨、落チ着イテ」

「落ち着けるか!3年だぞ!?3年探して、何の手がかりもなかった親父の名前を、どこかの誰かが顔見知りの気安さで呼んだんだぞ!?くそっ!」



 不可解な状況に包囲されると同時に両親の行方の手掛かりとなる一言を得た時雨は、苛立った声をガデティウスに返す。必死になって夜空を見上げ、時雨は再び赤く細い光線が、先程より下方の上空へ照準を変え、静かに空を横切る様を見た。さらには、なぜだか赤い光線が〔全く同じ軌道で地上へと戻っていく光景〕を時雨は見た。

 そして、



「くっそ!ガティ!?上空に何か捉えられるか!?ヘルメットを介して俺の視線を辿れ!」

「おお!いたいた!お~いなんだよ、やっぱ馬鹿元気そうじゃん!意外と近くだったな!?ああ、お前が能力使ったって心配してたビビり雷音(ライン)もすぐ来るぜ!?」



 切羽詰まった様子でガデティウスに声の主の位置を探らせる時雨に、そんな声がかかった。

 だから、時雨は、



「・・・申シ訳アリマセン、時雨。ドウヤラ周囲一帯ニ、センサー類ニ対シテモ有効ナ精確ナ測距ヲ許サナイ類ノ妨害モ入ッテイルヨウデス」

「何だと!?何がどうなってる!?何でこんなスラムに妨害電波を出す馬鹿がいるんだ!?」

「おお?何だよ、空になんかあんの!?おお!ほらあそこの雲!ドーナツみてぇじゃね!?」

「・・・ドウシマスカ、時雨?」

「指を咥えて見てるわけにはいかない!どうやら攻撃らしき赤い光線は反撃を受けて停止したようだし、2度目の光線の軌道を考えれば、俺に言葉を届かせた腐れ野郎は上空から落下してる!つまり!」

「おお!お前ヘルメット変えた!?いついつ!?何月何日何時何分!?俺が何回笑った時!?」

「つまりだ!俺は腐れ野郎の着地点を目指すしかない!」


 時雨は、気安く話しかけてくる少年の声を、完全に無視した。さらにはいつの間にか単車の正面に立ち、気安くガデティウスのハンドルに肘をかけていた緑のロングマフラーを首に巻いた少年の笑顔に向かい、



「フルスロットルだ!ガティ!」

「了解シマシタ」

「おお!?何だよ時雨?顔超怖いぜ!?ハッハ!新しい顔芸!?」



 ドッシャアア!



 時雨は躊躇なく単車のアクセルを解放、背の高い少年を真正面から轢いた。

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