俺はここにいるぞ!
「凛名あばばばばばばばばばばばばばばああああああああああ!」
ミサイルにすら追随する超高速飛行による風圧を直接顔面に受ける時雨は、頬の肉をブルブルと揺らしながらそう叫ぶ。あくまでも他者の魂の力の一部を借り受けるだけの時雨の能力は、白虎の持つ強固堅牢な甲殻装甲を全身に施すには至らず、ミールナールの魂で肉体を強化されているとはいえ、身体が軋むのを止められない。
それでも、
「〔疾風〕、〔加速〕あああああああ!」
時雨はさらに、背中と両肩、両脚から圧縮空気を噴射し、紺色の天空へと特攻する。
なぜなら、
「よこせよ!その女をををををを!」
反転したミサイル、その上で絶薙大和が抱えた銀色の少女を、時雨は奪わねばならないのだ。
だからこそ、
「腐れ邪魔だぞ!?絶薙大和!」
「溢れそうだぞ!?天出雲時雨!」
時雨はミサイルと交錯する寸前、大和が右手で逆手に握る神速の刃を間一髪で回避。大和も時雨の繰り出した左脚で薙ぐような飛燕の蹴りを、背を逸らしてかわしている。次いで、時雨は両脚を天空に反転。同時に足裏で空気を〔反射〕し、膝と足首の関節、足指の関節と白虎の甲殻装甲の緩衝効果と圧縮空気を全開にして、〔空中に逆さに踏みとどまってスピードを殺す〕。
そして、
「勝手に濡れてんじゃねぇよ!腐れ早漏女!」
バキィイインン!
ミールナールの〔反射〕の力と白虎の〔飛翔〕の力を解き放ち、ミサイルを追って高速垂直降下した時雨の脚裏で、蒼い波紋。轟と冷たい空気を打ち鳴らして、蒼い流星と化した少年がミサイルに迫る。
そして、
「凛名!」
その途上で、時雨の蒼紫の瞳はしかと見た。
大和の左手が抱える少女、銀色の頭がゆるりと動くのを。
キョロキョロと周囲を見回し、時雨の声に応じて振り返るのを。
そして、
「時雨、さん・・・?」
聞こえはしない。
それでも、
「よか、った」
ただ、少女がそう言ったのを、少年の魂は確かに捉えている。
状況に困惑しながらも。
わが身が危険な状況に曝されていながらも。
なお、少年を1番に探し、見つけ、そう言った少女の優しい魂の声を、確かに時雨は感じている。
だから、
「俺は・・・」
時雨は、
「俺はここにいるぞ!」
あらん限りの叫びを上げ、追いついたミサイル、その上で大和に抱えられた凛名に手を伸ばす。
だから、
「そうか!だが!今は私を見てもらおうか!」
手を伸ばした時雨の眼前で、大和は左手で凛名を抱え直すと、その華奢な身体を、
「ふひぃ!?」
「凛名!?」
「さああ!刹那の交わりををを!」
凛名の身体を、遥か下方へと投げ飛ばした。