いいか!?
「どうして?」
「私は知っている」
「私はアナタのご両親と大切な仲間達、白虎くんや桜夜ちゃんや雷音くんを知っている」
「その魂を、その未来も、なぞることが出来る」
「誰も傷つかない」
「アナタは感染者ではなくなり、探偵でもなくなり」
「出会うべくして出会う」
「出会わずして、苦しまずして」
「望まない?」
「十分でしょう」
「ただ」
「アナタの夢」
ハッと、蒼い眼が見開かれる。
白い。
医療衣を纏う少年の眼には、それしか映らなかった。
重い。
倒れた少年の身体は、微動だにしなかった。
それを覗き込む、白いワンピースに銀髪の少女がいる。
だから、
「ミールナール」
時雨は、頭の上にしゃがみこんで見下ろす紫水晶の瞳に、そう聞いた。
すると、
「ここにいる」
凛名に瓜二つの少女、月虹竜の仮初が、自らの胸に両手を添えて、そう言った。
だから、
「死んで、霧散する俺の魂を、お前が」
時雨は強く目を瞑って、事実を受け止める。
終わった。
その認識に、全てが染まる。
1度肉体を離れた魂が、即死した少年が、今すでに終わっていたことを理解する。
顔を覆った右手、その下で、頬に熱い涙が伝うことを。
だというのに、
「アナタの力の姿」
「・・・」
「心を読む、〔魂を繋ぐ〕、アナタの力」
「・・・」
「いきたい?」
「・・・な、に?」
時雨は、問いかける竜の化身に、涙を零す蒼い瞳を向ける。
そして、
「いきたい?」
少女は問う。
生きたいのか。
逝きたいのか、と。
そして、少年は知っている。
「俺は・・・」
突き付けられた選択肢と、その先に待つ2つの道を。
「夢?」
少女は問う。
このまま夢に落ちるのか。
「それとも」
ただ、どちらを選ぶのかを。
もちろん、
「・・・俺は」
誰も、少年の弱さを止めることなど出来ない。
人を見失い、力に悶え、道のりの途方に暮れ、師を裏切り、死によって裏切られた。
傷つき、傷つけられ、ついに辿りついた安寧を、その理想だけが作る夢を、眼前の少女は体現し、永遠に保障する。
だから、
「わかっているんだろ?」
白の中で、少年の右手が大地を掴む。
「俺は、気づいたんだっ!」
白の中で、俯せになった少年が踏ん張り、鉛より重い身体を持ち上げる。
「〔死んでもいいなんて、アイツは絶対言わないって〕!〔本当の俺〕は、気づいちまったんだっ!」
少年の腕が重さに耐えきれずに滑り、顔から白い大地に落ちる。
「お前が凛名じゃないって!そう思いこめなかった!そうすりゃよかったのに!なのに俺は、やっぱり納得出来なかったんだ!だったら!」
口の端から血を流し、それでも少年は両手で踏ん張り身を起こす。
「それが・・・俺の答えだろ!?だったら!」
ガシリと大地を踏みしめて、少年は重い身を揺れながらも、ついには立ち上がる。
そして、
「いいか!?」
少年は、右手の人差し指で見上げる竜の化身を指さし、
「俺は弱い!」
「・・・」
「大切な人を探すと言って非情になり切れず、危ないと知ってて中途半端に仲間とつるんだ!」
「・・・」
「俺は強くない!大和のような力も、白虎のような心も持ってない!俺が弱いからだ!でもな!」
「・・・」
「それだけは、俺には捨てられないんだよ!どんなにクソみたいに苦しくて辛くてもだ!嘘つきの親父とも、消えた仲間とも、白虎と桜夜、雷音とも!熊切さんと波崎さんとも、東全獅と大和とも!俺は!」
「・・・」
「俺は弱いから・・・ダメなんだ。アイツを助けてやりたいと思っちまった。俺より沢山失って、俺よりずっと独りで、ずっと頑張って、こんな、中途半端で、馬鹿で、腐った俺を信じてくれた!」
「・・・どうして?」
その問いに、
「人を!俺は!愛してるからだ!見えない繋がりを!失われた約束を!だから2度と絶ち切らせはしない!この手で繋ぎ止めてみせるさ!」
そして、ただ、
「いいから、さっさと俺を起こせよっっっっ!」
時雨はとめどなく溢れる熱い涙を振り切って進む。