正義の台風
「高度を上ゲロ!2度ハナい!回避しロ!」
そんな波崎和馬の焦った声に被って、
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおい!?ラぁあああああイイイイイイイイン!?さっき俺が甘いとか臭いとか言ったなあああああああああああ!?」
「OHOOOOOOOOOOイェエアアアアアアアア!言ったけど言ってないよおおおおお!?流石に体臭批判まではしていないよおおおおおおお!?」
上昇するヘリを追撃する小さな影、ブランコの振り子でグングンと巨大になる白虎を乗せた雷音のバンプレートが、仮面の男には意味のわからない奇声を上げて迫る。
波崎の頬を冷や汗が一筋辿り、それを知る由もない白虎がなおも叫ぶ。
それは、
「おい雷音んんんん!?俺は正義超人だぁあああああああ!?だからよおおおおおお!甘くていいんだぁ!優しくて!馬鹿で!力持ちで!考えなしでもいいんだあああああああああああああああああああああ!」
真白虎丸という人間の本質であり、
「正義はなあ!世界を救う力なんて持ってないし、人を殺す理由にもなる!100人の他人と1人の恋人すら選びきれない、最強に弱いもんなんだああああ!だけどなぁああああ!」
ゴウンという音と豪風を撒き散らしてヘリの真横を過ぎ去り、
「正義はテメェだけのものだ!自分を信じてぇなら、まずテメェのそれを信じりゃいいんだ!他人を知りてぇなら、正義と正義でぶつかってみりゃいんだ!」
中空でついに自重をブースターの加速では持ち上げられなくなったバンプレートが停止し、朧な天空に、白い虎が吠える。
そして、
「だから俺は!世界で絶対の、唯我独尊な俺の正義に従うんだぜぇええええええええええ!」
黒い巨人の背後、爆熱するブースターの上に白い影が移動したのを、波崎はヘリの窓から見つける。
だから、
「サァァアアアアアアアアアイクロン!ブースタアアアアアアアアァアアアァ!」
バンプレートを回避し、要塞クジラの背にある艦載機の発着場に向かうヘリに乗った波崎和馬は、
「認メヨう。そコマで潔く在れる、君の生き様ヲ」
最新鋭とは言え十数トンの重量を誇る〔O.F.〕を全身の圧縮空気の放出と剛力でクジラの背へと押し飛ばした白い獣を、そう評す。
正義の台風。
時代の流れと、今現在の世界の姿を突き付けられ、それは簡単に揺らぐ不動であり、変化する普遍。
そのような矛盾を孕み、尚も人の心の確かな部分を占める魂の疾風。
ただ、
「そノ心、想い、在るガまマニ成す、か・・・」
だからこそ男は、着陸態勢に入ったヘリから力技で無理やり吹き飛ばされた鉄巨人が見事な着地を決めたのを目撃しても、その足元に全身から放熱による蒸気を迸らせた正義超人が着地する姿を見ても、もう驚くことはない。
ただ、男はヘリが着艦する寸前、
「葬レ。しカシ、いイカい?丁重に、ダ。彼トソの友の正義に、我らが正義ヲモって!」
白虎と雷音の接近を警戒し、手配していた無数の戦闘員と3機の〔O.F.〕、赤黒い体躯を誇る〔崩壊者〕と物干し竿のように長大な狙撃銃を構える同種のそれに、不屈の少年達を始末を命じる。
それでも、
「さあ!見せ場だぜ雷音!?」
「カァアアアアハァアアアアアアア!ここで退いたら、友が廃るよ!」
白緑の虎獣と雷黒の鉄巨人は、ひたすらに波崎の傍らの銀色の少女へと突っ込む。