最新型・超巨大ぶらり上陸作戦
「おおい雷音!?落ちてるぞぉ!?」
「ファアアアアアアアアアアック!右の補助ブースターがイカれた!高度が、維持できない!」
2人の少年が叫ぶと同時、高速の飛翔の中で漆黒の巨人がガクンとバランスを崩し、その左脚の先端が廃墟と化したビルの屋上を掠める。
そして、
「逃げられちまう!ヤベェな!?俺の乳が!」
雷音が必死に制御を取り戻そうとしている鉄の巨人、バンプレートの肩の上で、白い甲殻装甲に身を包んだ白虎が白い涙滴型のヘルメットをなおも上昇するヘリに向けて怒号を上げる。
「くそ!さっきの熱暴走爆発で、右舷のメインウイングも吹き飛んでる!カッハ!こりゃ飛べないぜぇぇええええええ!?」
「・・・」
「白虎くん!君の飛翔能力なら、まだいけるよ!だから、要塞クジラが高度を上げないうちに!」
白虎は、足りない頭でバンプレートの制御に手一杯になっている雷音が言っていることを理解する。その上で僅か顔を俯けて沈黙した自称・正義超人は、
バガン!
思い切りよく、最新鋭の〔O.F.〕の一抱えはありそうな頭部をぶん殴る。混乱したように振り向いた雷音に、ロングマフラーを靡かせた少年が右手の人差し指を突き付けて言い放つ。
「違う。俺達だ」
「え・・・?」
「俺達がやるんだ!俺達だぞ!?おお!?俺だけじゃねぇ!お前がいなきゃ意味ないだろ雷音!?」
だから、
「甘いよ!甘いんだよそんなんじゃYOOOOO!?ここまでやれただけでも奇跡に近いんだ!なのに君は・・・!」
ついに温厚な雷音が、状況判断が出来ていない白虎に怒りを露わにする。
しかし、
「ありったけのアンカーを俺に撃て!」
「え?」
「撃てっつってんだよ!俺がお前を、連れて行く!」
白い甲殻装甲の長身は、雷音の雷鳴の怒気を軽い向かい風のように受け流し、巨人の右肩からソニックブームを発しながら飛翔。装甲の下で圧縮した空気を後方に噴射し、エメラルドの軌跡を放つ白い弾丸となって上空200mにまで迫ったオオゾラクジラに向かって飛ぶ。
そして、
「置いてくぞ!?」
「!」
白虎の笑み混じりの声が、友人に依存する雷音が最も恐れる未来を突きつける。
ならば、
「・・・ターゲットロック!全アンカー、射出!」
心の弱い少年がとる選択肢など、1つしかない。それを示すように、ガクガクと揺れる巨人の両腕、腰、肩から、合計6つのワイヤー付きアンカーが白虎に向けて射出。飛翔する白い少年の背中の1点に向け、想いと共に追い縋る。
だから、
「後は、まああああかせろおおおおおぅい!」
超人的な反射で背後を振り向き、背中に当たる寸前で6本のアンカーの基部を右手でつかみ取った白虎が、再度反転して眼前に迫ったクジラの腹に向かう。
同時、
ダタタタタタタタタタタタタタタタタ!
急速接近した異分子、白虎に向け、クジラの腹に固定された対地砲が起動。オレンジの尾を引く曳光弾が精確に少年の進行方向を予測、狙い撃つ。白虎の耳に曳光弾の影に隠れた通常弾の風切り音が幾つも掠め、直撃という死が少年の傍らに寄り添う。
だが、
「サイクロォォオォオン・クジラ狩りぃいいいいいいぃいいいぃいいいいい!」
白虎はそれを恐れるどころか、その砲火の中で全身の装甲を大きく展開して急制動。一瞬敵が自分を見失った隙を突き、右手が持った6本のアンカーをクジラの腹に向けて投擲する。
計算ではない、ある意味で天才的な天然の戦闘センスでもって虚を突き、白虎が放ったそれらは見事にオオゾラクジラの腹に命中。錨のような返し部分がクジラの白い複皮の内側に喰い込む。さらに繋がったワイヤーを引いた白虎は、伸びきったワイヤーの先から右手に返ってきた抵抗感から、アンカーが完全に固定されたことを確認する。
だから、
「雷音!?俺の声、拾ってるな!?」
ヘルメットの奥でニヤリと笑った白虎は、展開した装甲を戻し、宙返りするように頭を下に反転。次いで、展開した装甲が閉じる際に取り込んだ空気を圧縮・放出。装甲に覆われた右手と掴んだワイヤーの間で火花を散らしながら、一気に不時着寸前の飛行を続けていた雷音の下へ飛び、
「もうわかるだろ!?だから!」
軽業師のように高速で飛翔するバンプレートの胸に手をついて見事に停止、
「全速前進!ブースター、全開だぜぇええええええええ!」
「納得!了解!ワイヤー巻き取り開始!ブースター解放!いけるぜカァアアアハァアアアアアアアアアアアアアアア!」
白虎の意図を理解した雷音の心が息を吹き返し、叫びを返す。同時に巨人の肩と腰、両腕が放ったワイヤーの巻き取りが開始され、鉄で編まれた6本の強固な縄がビィンと音を立てて伸び切る。次いで、巨人の背面に取り付けられた飛翔装置がブースターの熱量を解放、爆発する勢いで加速する。
そして、
「名付けて!最新型・超巨大ぶらり上陸作戦んんんん!」
「作戦名が長くて内容丸わかりだぜカァアアアハァアアアア!」
クジラを支点にした振り子運動で急速上昇を開始した鉄巨人が、白虎の作戦名通り〔ブランコ〕と化して、遠ざかっていたヘリのテイルローターに迫る。