右の爆乳と左の巨乳
『出来るはず!時雨さんと私の力なら!』
「凛、ちゃん?」
桜色の髪の少女は、周囲を取り巻く風の中、その声を聞く。
次の瞬間、側に跪くように駐機していた黒い巨人、黄色い雷のような鋭いラインが奔るそれから外部にも開放された声がする。
「強大な魂の展開と〔界子〕の収束反応を確認。ここからでも見える。それに、これは・・・」
「おお、この〔臭い〕は、凛名だな。もう1つのほうは、異獣か」
声を発した巨人の足元、少女から少し離れた位置で地平を見つめる白髪の少年が、腕組みのまま微動だにせず、自信に満ちた返事を返す。その視線の先に、少女も白い2本の柱、幾枚もの白い羽根を散らし、夜を裂く銀翼と、白い腹を朧雲の隙間から下ろしたオオゾラクジラの威容を見る。
だから、
「・・・ゴメン。〔航羽社製の無人タクシーに積載してる人造意思の目撃情報が、時雨くんを見つける前に〕、どうやら何かが起きたみたいだ。ここなら、それですぐに駆けつけられると思ったのに・・・」
そう謝る巨人の主に対し、少女は、
「いいの。それにそもそもあの時、〔演技〕で2人を傷つけた私のほうが悪人だよ。傷つけた上で、こんなことさせてる私のほうが、よっぽど悪い人間だよ」
この状況を作った少女は、目を伏せてそう告げる。
自分のやっていることが正しいのかわからず、しかしそうせずにはいられず、巨人の主と腕組みをした幼馴染の力を借りてしまった少女には、深い罪悪感があった。
桜色の髪の少女は、蒼い瞳の少年の感じていた、〔自分の想いに仲間を巻き込みたくない〕という心の在り様が、やっと理解出来たような気がしていた。
しかし、だからこそ、
「じゃあ、やめろよ」
桜色の髪の少女は、腕組みをした白髪の少年の背中が発する言葉、
「お前はここにいろ。そんで、俺を待てばいい」
「・・・」
「そのかわり、帰ったら頑張った俺へのご褒美でデートな?」
少女を気遣い、ニカっと歯を剥いた笑みで振り返った小麦色の肌の少年に苦笑する。
だから、
「ヤダ」
「何いいいいいイイイイイイイイイイイイイイイイイ!?」
「うわ~」
少女は狼狽え項垂れた白髪の少年と、少女の厳しさに若干引いたらしい巨人の主に、
「馬鹿ね。2人ともわかってない」
悪戯っぽい笑みで、
「1番頑張ったのは私と航羽社の御曹司。だから・・・」
少し照れてそっぽを向いて、
「見届けてあげるから、頑張ってよ。絶対に、死なずに、ね?そしたら・・・デートでも何でも、してあげるから」
「・・・え?」
白髪の幼馴染を、しばらく呆けさせた。
そして、
「おおおおおお!発進だああああああああ!この目論見には、右の爆乳と左の巨乳がかかっている!しかも生だぜひゃっほおおおおおおおおおおおおおおおい!」
「うわ~、やっちゃったね~。この人がそういう風にとっちゃうのも、考えといたほうがよかったね~」
「ちょ、ちょっと!?何で乳!?そして生で直!?ダメダメ!つーかアンタ最近週3くらいでいきなり鷲掴んでくるでしょーが!?死ね馬鹿!いや死んじゃヤダけどっ!」
3人は、どうなるか知れない状況、死を覚悟せねばならない場所に飛び込むこと。
そんな状況でも、決して諦めず叫んでくれる蒼い瞳の少年がいない不安を隠して。
「作戦決行!今から凛ちゃんを泥棒に行くよ!?」
「おお!正義の怪盗だな!?ドブネズミの小僧だな!?」
「了解!レールカタパルト、オープン!試作型・空中走破輪、起動!」
炎点都市ヨロズ最上部、航空機が離発着する空港の一角で、雄叫ぶ。
そして、
『どう、して!?ミール・・・!?』
桜色の髪の少女の心に、再び銀色の翼の少女の声、悲痛な色の叫びが響く。
藍色の瞳を目的地に向けた少女の前で、紫の光を放っていた白銀の翼が縮んでいく。