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銀色の翼

「時雨!?ソンナ!?」



 電子の叫びを上げたガデティウスが自らを支えていたスタンドを上げ、自動操縦(オートランモード)モードでのっぺりとした仮面を装着した男、波崎の側から自走し、同時にハンドル付近で彼女の腕たる簡易マニュピレーターを左右に広げる。うつ伏せに倒れた少年を引き起こした凛名の傍らで停止し、時雨の胸に3本の指を持つその両手を押し付ける。

 そして、



「ガティさん、ガティさん!?血が止まらない!?押さえても、こんな・・・!?」

「凛名、落チ着イテ!」

「ひ、あ!?」



 時雨の首を支え、喉に空いた小口径弾の丸い傷跡から漏れた血に白いブラウスを濡らした少女、錯乱に近い混乱を来した凛名を、ガデティウスは強い口調で叱責。きちんと止血点を押さえている少女がその状態を維持するよう促す。

 同時に、探偵の優秀な相棒たる彼女は、時雨の状態を両腕や本体のセンサーで精密に探っている。脈拍、血圧、散瞳やショック状態の確認を、インプットされた緊急医療知識と簡易マニュピュレーターで行っていく。

 さらに彼女は並行して本体の通信機能を起動。救急車両の手配、近くに居を構える黒衣の闇医者・DJへ繋げた回線による時雨の状況報告と治療要請を済ませる。

 しかし、



「ソン、ナ・・・」

「ガティ、さん・・・?」



 彼女の演算機能が導き出した結果に、ガデティウスは呆けたような声を漏らす。

 ただ、それだけで、



「ハッキリ言いナサい。即死、ナノだろう?」



 2人の必死な姿を静かに見守っていた男が、仮面を通した合成音声でそう聞いた。

 そして、



「ガティ、さん?ガティさん!?」

「・・・凛名、私ハ」



合理の淑女である人造意思、ガデティウスは、



「私ニハ、モウ何モ出来ルコトガアリマセン」



 〔灰色の男〕と自らが導いた結論を、



「時雨ハ、死亡シマシタ」



答えを求める凛名に、そう告げる他ない。

 その言葉を聞いた少女の、困ったような八の字眉毛がスウッと平らになり、光を失った紫水晶から感情の残滓のように月夜に輝く雫が落ちる。少年の身体から零れる熱い血潮に濡れ、凛名の白い肌が青ざめていく。小柄な体が震えだしたのを、しかしガデティウスに止める術はない。

 さらには、



「デハ、行こうカ?我らが尊い贄ナル少女」



 廃病院のロビーに侵入してくる無数の影、波崎和馬が所在を隠匿していた〔真実の御旗(トゥルーフラッグ)〕の実働員が周囲を取り囲むのをとめることも彼女には出来ない。

 なぜなら、



「嘘、デス。コンナノハ、時雨」



 彼女の支えるべき主、瞼を閉じて、白く、固くなっていく少年は、今まさに死んでいたのだ。彼の望んだ少女を守る術もなく、彼を信じた少女を逃がす道も、もはや完全に閉ざされている。

 だから、



「アア・・・」

「ホウ?人造意思でも、そんな風ニ世界を嘆クことが出来るのダネ?」



 心を砕かれたガデティウスは、〔自然派〕の黒幕、3年もの間時雨を騙し続けてきた男に報復することすら出来ない。すでに勝者は決定し、全ての時が終わり始めている。

 だからこそ、



「もう・・・メ。私の・・・殺・・・そんなの・・・」

「凛、名?」



 だから、こそ、



「ミィィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイル!」

「何、ダ!?」



 ガデティウスと波崎は、爆発的に少女に集束した〔界子〕、銀と紫に輝く粒子の流れを見て目を見張る。

 細い背中、肩甲骨から純白の翼を生やし、際限なく巨大化する銀の奔流で廃病院の天井を砕く少女を、見つめることしか出来ない。

 ただ、



「死なせない!だから力を!ミールウゥウウウゥウウウウウウウウウウウウウウウ!」



 少年と同じ、ただ前へ進む光をその瞳に宿した少女を、世界は見守るしかなかった。


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