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「・・・〔AVADON(アヴァドン)〕が提供した彼女の情報。人権。探偵と関わりの深い、法律の専門家である弁護士」

「・・・」

「必要なのは、君が自由に動ける時間と身分。そして結末は、僕と同じようにマスコミを利用した告発と、それに伴う少女の贖罪による存在の主張、か」



 僅かな沈黙を挟み、突然脈絡のない言葉を並べ始めた波崎を、時雨の蒼い瞳はジッと見つめる。少なくとも少年は、自分が突き付けた要求、〔たったそれだけの事象から、波崎がこちらの思惑を看破した〕ことにもう驚きはしない。

 ただ、



「だけど、なぜだい?なぜそうまでして、君には彼女が必要なんだろう?」

「俺は探偵である前に、俺なんだよ、波崎さん」



 〔両親と大切な仲間を探す少年〕は、時雨の企てに怪訝な瞳を向けた波崎に、そう告げる。波崎の灰色の瞳が、時雨と言う人間を改めて理解し、溜息を漏らして導き出された推測を口にする。



「そう、か・・・〔朧凛名が君の探し人の情報を持っていれば、君の動きも策も裏切りも、全て説明出来る〕。それなら君の暴走ともいえる行為にも、納得がいくよ」



 〔灰色の(グレイ・フェイス)〕は、時雨が突き付けた要求から、少年が企てている策、そもそもなぜこんな行動に至ったのか、それをついに理解する。男の灰色の瞳が時雨の右手を握る少女、〔少年の提示した要求にも全く動揺しなかった少女〕、少年を信じることを選んだ凛名を見て自嘲するように笑う

 そして、



「・・・僕は今、自分の過ちを悟ったよ」

「過、ち・・・?」



 時雨の全身を、感情の消えた波崎の声が悪寒となって舐める。

 さらに、



「そもそも僕と君とでは、同じ探偵でも、同じ状況下に曝されても、見つけ出そうとした真実が違ったんだ」

「・・・」

「わからないか」



 言葉を慎重に探る時雨に、虚無という異様となった波崎が不出来な教え子を諭す口調で続ける。



「いいかい?まず、政府は朧凛名、つまり純竜種を国家間の抑止力として欲している。だから彼らは、〔AVADON〕を動かした。彼女を是が非でも確保しなければならないからだ」

「それは、そう、だが・・・?」

「まだだ。聞きなさい」



 話の展開についていけず、戸惑いを隠せない時雨を制して、男は続ける。



「一方、君は〔両親と大切な仲間〕を探す男、天出雲時雨だ。ならば、朧凛名が探し人の情報を持っていると知れば、君は彼女をなんとしても奪い取ろうとするだろう。僕はそれに気づくことが、その可能性を予測することが出来なかった。それは必然だ。僕は彼女がそんな情報を持っているという事実を得ていなかったのだからね」

「何が、言いたい!?」

「時雨、さん・・・?」



 叫びを上げた時雨の右手を、驚いた声で凛名が握り直す。

 しかし、



『なん、だ・・・?なんだ、これは・・・!?』



 時雨の思考は、己の本能が淡々と話を続ける波崎を見て警鐘を鳴らしていることに当惑する。

 波崎の雰囲気が変わった瞬間から、時雨の背中を嫌な汗が撫でていること。

 自分の左脚が、ジャリリとガラス片を踏んで後ずさっていることに、混乱する。

 だが、



「だけどね、それは〔僕だけじゃない〕。僕だけが、〔知らなかったから予測出来なかった〕わけではないんだよ。それは、〔君も同じ〕なんだよ」

「何、を、言って・・・?」

「もう、わかるだろう?なぜ〔AVADON〕と敵対し、この街を知り尽くした僕と熊切さんがいて、〔彼ら〕が追い詰められなかったのか。それは、そういうことだからだよ」



 身体の震えを抑えきれなくなった時雨の前で、〔恐るべき推測を導いてしまった少年〕の眼前で、男は右手でコートの懐から薄い楕円形のそれを取り出す。時雨の耳には、複数の生体反応の接近を探知したガデティウスの叫びと、ヘリのローターが唸る爆音が確かに届いていたが、それだけでは真実を理解した少年の思考を動かすことは出来ない。

 周囲を取り囲む足音と無数の影、ガデティウスの索敵網を計算し、〔逃走出来ないほど迅速な接近、高高度降下(ハイアルティテュード)低高度開傘(ロウオープニング)を行った敵〕に時雨と凛名はすでに囲まれている。



「嘘、だ。だってアンタは、俺を、感染者である俺を弟子に・・・」

「ああ。それはね」



 状況を受け入れられない時雨の前で、警察署を襲った巨人を覚醒させた映像と同じ、鉄仮面を付けた男がサラリと言った。




「3年以上付き合いのある家族のように親しい感染者を裏切り、殺す。それが〔真実の御旗〕の入団条件で、くだらなくも合理的な因習だからだよ」



 そして、



 タン!タン!タン!



「・・・あ?」

「時雨さん!?」

「なん、だよ、これ・・・?」

「いや、嘘、こん、な・・・!?」



 喉と胸の中心、ついには心臓を貫いた〔灰色の男〕、



「君が初めから、〔朧凛名の望み〕ではなく〔黒幕〕を探していれば、結末は違ったかもしれないね」



 〔自然派を操っていた黒幕〕、波崎和馬の小型拳銃から放たれた凶弾によって



「いや、いや、時雨さん、いやあああああああああああああああああああああ!」



 英雄探偵は、ゴボリと血の塊を吐いて、暗黒の死の中に倒れ伏す。


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