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Endless Story  作者: 詞葉
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第五章(6)

 今、自分を支えているのは一本の腕だ。何度も包み込んでくれて、助けてくれた優しい腕。それが今、シェーナの首を絞めながら宙吊りにしている。掴んでも、何をしてもびくともしない。


「アシ……ス……っ」


 さらに指が食い込む。五指の爪が深く皮膚にもぐり、シェーナの白い首に赤い筋を作った。息が上手く通らない。


「ア、シス……」


 苦しかった。

 息がとか、アシスにこんな風にされることが、ではない。彼に何もしてあげられないことが、何より苦しかった。


 目が見えない。今の彼を知ることができない。腕が届かない。彼がどんな表情をしているか分からない。悔しさに、涙が流れた。

 シェーナは首を持たれたまま地面に叩きつけられた。背骨のきしむ音がする。勢いよく跳ねたにもかかわらず、首から手は離れない。


「ごめ、ん……ね」


 助けてあげられなくて。何もしてあげられなくて。大切な存在だと、守りたいと言ってくれたのに、自分は彼を止めることすらできない。

 大切な両親を手にかけた彼。悔やみ、生きる意志と意味を失ってしまった彼。自分を殺し、正気に戻った時、彼は何を思うだろう。どうするだろう。

 自ら守ると言った者をその手で消して、それでも彼は生きてくれるだろうか。それとも、壊れてしまうのだろうか。


(そんな風に……なって欲しくないよ……)


 シェーナはあらん限りの力を込めて両手を伸ばす。その指先が、アシスの頬に触れた。

 冷たい頬。まだ、見たことがない彼の顔。どんな顔かは分からないけれど、この人に絶望した表情などして欲しくない。笑っていて。そして、できるなら――


「わ、た……し、な、にも……で、き……な、けどっ……」


 途切れ途切れにしか出ない言葉。

 その時、ブレスレットが眩いばかりの青い光を放った。以前のような圧迫感はない。優しく清らかなその光が、アシスとアシスの纏う紅い魔力を包んでいく。


 その光に怯んだように、アシスの手がシェーナから離れた。

 しかし、その場から動かぬ彼の頬に、今度こそしっかりとシェーナの手が触れる。小さい手で引きよせて、シェーナはそのままアシスを抱きしめた。

 彼が、彼の魂がどこにも行かぬように。


「私はっ……私はアシスと一緒に生きていきたいっ!」


 青い光の中、アシスの紅色の瞳から、一筋の涙が零れ落ちた。




   ※ ※ ※ ※ ※





 穏やかな空間を、アシスは独り漂う。先程までの苦しさがない。


(ここ……どこ?)


 優しい空気と暖かい空気。その二つがアシスを包み込んでくれている。


(もしかして、死んだのかな……)


 こんなに穏やかで安らかな場所は、死んだ者の場所という考えが浮かんだ。けれど、この空気を自分は知っている気がする。どこで?


――なあ。もしかしてこのまま『はい、さようなら』じゃないよな?――


 どこからか、また声がした。しつこいなと思いつつ、そちらに意識を向ける。

 だが、感じたのはあの黒い気配ではない。


――やめてくれよ、そんなこと。二度も約束を守れないなんて、恥だろ――


 口調も違う。先程の黒い気配は、こんな気安い雰囲気ではなかった。


(何を、言って……?)


 言われた意味が分からず、意識だけで問い返す。


――お前は、リーファ・エルリストのようにはならないんだろう?――


 その言葉に、指先がピクリと動いた。

 そうだ。そう言った。彼女に。


――なら、しっかりしろよ。泣かせたままにする気なのか?――


 ぐっと拳を握る。そんなつもりはない。女を泣かせる男は最低だ、とアランも言っていた。


――彼女の願い、叶えてあげないとな――


 全身に力を入れる。まだ、動ける。生きていける。


――今度こそ、彼女を守るんだろ。『俺達』は――


 グンッとアシスは目を開ける。振り返った先、光の向こうに、金糸の髪と青紫の瞳で笑う青年を、見た気がした。


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