変革の時②
葛藤に苛まれた夜が過ぎるのは早く、気付けば今日は月曜日の朝。
僕はうなだれた様子で、その重い両足を引きずり教室へと入る。
遊園地であんなことがあった手前、なんだか今日は清水さんと顔を合わせづらい。こういう時はいつも通り普通にしていれば良いのかな。そんな鬱屈する思いに縛られながらも、僕は自分の席へと腰をおろした。
「おはよ。文春」
真っ先に声を掛けてきたのは有紀だった。いつもと変わらない日常の始まりに、僕は少し安堵した表情を見せる。
「おはよう、有紀」
「……なんでちょっと安心した感じ出してんの?」
「え? そ、そう見える?」
「ホッとしたような顔してたけど」
「まあ、ホッとはしたかな?」
「ふーん」
顔に出ていたのか。僕としたことが有紀に挨拶されただけでこんなに安心するなんて。
「何かあったの?」
「べ、べべべっべべべ別になんでもございませんこと?」
動揺し過ぎだ僕。中世の貴族みたいな語尾になってしまっているぞ。
「何その口調? ストレートにキモイよ?」
「傷つくぞ」
「『パンがなければケーキを食べればいいじゃない』みたいなこと言いそう。キャラ変?」
「このタイミングでキャラ変するわけないだろ。どこのアントワネットだよ。しかもそれ本人言ってないし」
「革命起こしちゃう?」
「それ僕は処刑されるよね?!」
僕と有紀が他愛もない会話をしていると、続けて流星が教室へと入ってきた。週末は部活の練習がよほど忙しかったのか。疲労気味気な表情であくびをしていた。
「おーっす。なんだお前ら? 何話してんだ?」
「文春の口調がキモイから指摘してあげてた」
「キモくないわい!」
「相変わらずバカやってんなー」
いつもと変わらない様子で僕たちは会話を続ける。どうやらまだ清水さんは登校していない様子だった。やっぱり、週末のあの出来事のせいで学校に来づらいのだろうか。そう思うと胸が締め付けられるような気持ちに苛まれる。
朝のホームルームの時間が近づいてきた頃だった。廊下から急いで走ってくるような、勢いよく地面を蹴り上げる音が教室の中まで響き渡ってくる。そしてその音はやがて僕たちの教室へと近づくと、勢いよく扉を開けて清水さんが息を切らしながら入ってきた。
「お、おおっはよー。は、はぁ、はぁ、ち、遅刻する、とこだったッ」
相当急いで登校してきたのか、かなり疲れた様子で倒れこむように席へとついた。
「あ、文春、くん。おっは、よー」
「お、おはよう清水さん。なんだか今日はギリギリみたいだったね? 寝坊?」
僕は平静を装いつつ、普段と変わりないように言葉を絞り出した。
「ね、寝坊というか、昨日は夜寝れなくて……」
「ゲームでもしてたのか?」
「違うでしょ。流星じゃないんだから」
そうか。清水さんも夜眠れなかったのか。そりゃ遊園地の疲れもあるとはいえ、あの後のことだもんね。僕と一緒で寝付けようと思っても、いろいろ考えこんじゃって寝れないよね。
――文春は勘違いしていた。六花はただエロゲのやりすぎで寝坊しただけで、別に告白の件についてはそれほど考えていなかったのだ。
「と、とりあえず呼吸を整えて落ち着こう?」
「ヒッヒッフーだな」
「それはラマーズ法だから。普通に深呼吸してね? 清水さん」
茶化すように流星が後ろから声を掛ける。それを隣で見ていた有紀は、唐突に真剣な表情で口を開いた。
「清水さん、今日の放課後に少し時間もらえるかな? ちょっと話したいことがあって」
有紀がそんな目をするのはバレーの試合で集中している時くらいだ。何か清水さんに対して、真面目な相談でもあるのだろうか。
清水さんはそんな有紀を見て、何かを察したように静かに答える。
「いいよ。私も天野さんに話したいことがあったから」
「……わかった。それじゃあ、放課後に屋上で待ってるね」
「……うん」
何やらただならぬ空気を、二人の背後から感じ取れずにはいられない。
流星はその光景を目の前にして「これは思い切ったことすんなー」と感心したように頷いていた。
一体、彼女たちは何をするのだろうか。それを知る由もない僕は、ただ目の前の光景を静観することしか出来なかった。




