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17/30

思惑入り乱れる遊園地取材(デート?)④

 僕たちは遊園地の窓口で『学校の部活動の取材で来ていること』と『お昼を動物園のレストランで食べた後に、遊園地へ再入場しても大丈夫か』を係員の人にダメもとで尋ねてみた。

 断られるかと思ったけど、意外にも二つ返事で「OK」をもらった。


 どうやら僕たちが遊園地へ来ることは知っていたみたいで「元々、杜の宮高校の知り合いから、部活動の一環で生徒が来ることを聞いていたので今回だけ特別ですよ」と説明を受けた。

 うちの高校の知り合い、というから先生なんだろうとは思うけど……誰なんだろう? 何にしても、その先生と遊園地の係員さんには感謝しなきゃだね。


 窓口で係員さんにお礼を言った後、道路を挟んだ向かい側にある動物園へ来た僕たちは、レストランへと歩みを進めていた。

 お昼時ということもあり、並ぶほどではないにしろ、遠目に見てもレストランは子供連れの家族やカップルなど、どこのテーブル席を見渡しても大勢の人で賑わう様子がうかがえる。

 

 レストランへ入店すると、僕たちは発券機の近くへと移動した。

 ここのレストランは発券機で購入した食券をカウンターに持って行き、ブザーと交換して好きなテーブルに座り、ブザーが鳴ったら自分の注文した品を取りに行くシステムだ。

 

「はい! ここで文春君はデートだったら、どれを選ぶのが正解かわかるかな!?」


「えっ! いきなりどうしたの?」


「いいからいいから! メニューから選んでみて!」

 

 清水さんと瑠璃川さんは肩を並べて、発券機の上に大きく張り出されたメニュー表を二人で指差す。

 

 僕はその中で、一番端にある『期間限定』と大きく載っている看板商品の写真へと目を配る。そこにはストロー型のクッキーが2つ刺さったパフェの画像が大きく載っていた。いかにもカップルが注文しそうな見た目をしている。これは答えが出てるようなものじゃないか。

 

「えーっと……デートなら『スペシャルストロベリーW(ダブル)チョコレートマウンテンパフェ』……かな?」


 こういうスイーツって長い名前のものが多いよね。『特盛イチゴチョコパフェ』とかじゃダメなのかな?

 

「正解! よくできました! さすが文春君! ――じゃあこれ発券しようか」

 

「ちょっと待って清水さん! 僕たちジュースを飲みに来たたけでは!?」

 

 価値観の違いというやつだろうか。僕は彼女の「そうだけど?」とでも言いたげな瞳に動揺を隠しきれない。

 しかもこのパフェ、カップルとか複数人で食べることを想定しているから写真で見た感じでもデカい!

 

「え? パフェは飲み物でしょ? それにお腹空いてたし」


「『カレーは飲み物』って言ってるようなもんだよ、それ!」

 

 しかも自分一人で食べるらしい。え? 女の子にとって、パフェは飲み物なの!? まさか瑠璃川さんも!?


「瑠璃川さんもパフェは食べ物だと思うよね?」

 

「ストローが刺さってるので飲み物だと思いますよ?」


「僕の感覚がおかしいの?」

 

 それはストローの形をしたクッキーなだけであって、普通パフェは飲み物に含まれないと思うよ。


「二人は何を頼むの? パフェ?」


「そのパフェ人数分頼んだら、僕ら大食い系の集団だと思われるよ」

 

「私はあまりお腹が空いていないので、キャラメルマキアートをアイスで頼もうと思いますっ」

 

「僕はアイスコーヒーにしようかな?」

 

「私はりんごジュースで!」


「清水さん、よくそんなに胃袋に入るね?」

 

 結局、別で飲み物も頼むのね。パフェは飲み物じゃなかったのかい?

 

 僕たちは発券機の前でそれぞれ注文する商品の発券を購入した。

 そしてカウンターで発券と交換したブザーを受け取った後、あまり人が座っていなかった外のテラス席へと移動した。

 

「はい。ブザー受け取るついでに三人分のお水も持ってきたよ」


「わぁっ! ありがとうございますっ」


「お水? みんな飲み物頼んだじゃん?」


「あのパフェにりんごジュース一杯だけじゃ、また喉乾いちゃうでしょ? それに瑠璃川さんも、甘いもの飲んだ後はお水あった方がいいかなって。僕は単純に喉乾いてただけなんだけどさ」


「ちょうど、取りに行こうと思っていたところだったので助かりますっ」


「なるほどね! ありがとう! 文春君って気が利くよね!」


「このくらいは何てことないよ。こういうとこ家族で来ると、いつも人数分の水を持ってくる係だったし」

 

 それはそうと正直、りんごジュースって後半逆に喉が渇いてくるし、水を飲まないとキツイと思うんだよね。お節介かもだけど。

 

「清水さんに関してはパフェも頼んでるからね。写真で見た感じ、あの大きさだとお水もあった方がよくない?」

 

「見てるだけでおなかが膨れちゃいそうですよねっ」

 

 瑠璃川さんの言葉に呼応するように僕は頷く。

 

「かわいくて気も利くなんて女子力高いよね! 文春君のこと()()()好きになっちゃうよ!」

 

「気のせいかな? その『好き』ってセリフ、僕には女友達へ言うトーンのセリフに聞こえるんだけど?」

 

「女の子的にポイント高いですよねっ!」


「……ほんと嬉しくないよ」

 

 それは()()()()()()()ポイントが高いという意味だろうか? 別に異性として『好き』と言われたいわけではないけど、だからといって女友達扱いされて喜ぶわけでもないんだよ。

 

 そんな話をしていると……僕と瑠璃川さんのブザーが鳴ったので、自然な流れで彼女のブザーも合わせてカウンターへと持って行き、アイスコーヒーとキャラメルマキアートを受け取った。僕がそれをテラス席へと運んだ後のことだった。

 矢継ぎ早に今度は清水さんのブザーが鳴ったので、もう一度カウンターへ行こうと身をひるがえした時に、二人から感嘆の声が漏れる。


「ありがとうございますっ。でも、申し訳ないです……私の分まで取ってきてもらって」

 

「文春君ってこういうとき、すごい率先して動いてくれるよね」


「いいのいいの。僕こういう場所ではお水持ってくる係の他に、ブザー交換係も兼任してるから…………姉ちゃんの命令で」


「ありがとね! 文春君はお姉ちゃんと仲良しなんだね!」


「『仲良し』って言葉が何かの隠語にしか聞こえないよ」


「蒼君のお家での立ち位置が垣間見えますね……」


「……パフェ……持ってくるね」

 

 僕がカウンターで巨大パフェとりんごジュースを受け取ると、テラス席では二人が取り出したスマホをテーブルの中央に置きながら準備万端の構えをとっていた。このパフェ想像よりデカい! そして重い! 慎重に運ばないと……。


 入店前に比べてさらに人混みが増えた店内で、僕はトレイに載せたパフェとジュースを蝶よ花よと赤子を抱いて歩くように、一歩一歩慎重に足を運んで席へと戻った。


「メニュー表の写真で見たよりも大きく感じるね!」


「テーブルの上での存在感がすごいですねっ」


「僕もこんなに大きいと思わなかったよ」


「これだけ大きいと私一人で持ってくるのは難しかったかも! 文春君! 持って来てくれて、ありがとう!」


「どいたまです~」

 

 目を丸くして巨大パフェに興奮する二人を見ながら、僕はアイスコーヒーを一口飲み、清水さんと瑠璃川さんの飲み物へと視線を移す。

 二人とも喉乾いてないのかな? それとも写真を撮り終えるまで口をつけてはいけない、なんて暗黙の了解でもあるのかな?


「文春君もちゃんと写真撮らなきゃダメだよ!」


「そうですよっ。お互い写真に残さないと『楽しかった思い出』を思い思いに共有できないんですからっ」


「えー。別に誰かが写真撮ってるなら、みんなで撮る必要なんてないと思うけど?」


「みんなが同じ撮り方になるわけじゃないんですからっ。それぞれ違った写真を共有してこその思い出作りなんですっ」


「そうだそうだ! 瑠璃川さんの言うとおりだっ!」


「よくわからないけど……二人がそこまで言うなら僕も撮るかぁ」

 

 デートではこれが基本なのかな? 男女の価値観の違いってやつなのか。はたまた僕がただインドアでこういうイベントを経験してこなかったゆえなのか。世の中のカップルの認識にはついていけないとこがあるよね。


「清水さん、写真撮るの上手ですね!」


「フフン! 巧みの技ってやつかな! 瑠璃川さんも一眼レフカメラで撮ったみたいでキレイ!」


「スマホの性能のおかげですよっ」


「文春君は……あんまり写真とか撮らない感じ?」


「清水さん、僕の写真を見て何を思ったのかな?」


「「画角が写真を撮り慣れていない人のそれ」」


「ひどくない!? ていうか、瑠璃川さんまで一緒にハモるって……そう思ってたってこと!?」


「今日はいっぱい写真を撮って練習しましょうっ」


「せめて否定してよ!?」


 確かに写真とか撮るの昔から苦手だったけど! 取材の時も写真係は瑠璃川さんに任せっきりだったけど! 一応、僕のスマホも瑠璃川さんと同じタイプの性能なのに!


 生まれて初めて自分に写真撮影の才能が無いことを知った僕は、チャットAIに『スマホで写真を上手に撮る方法は?』と聞いて『最新のスマホの性能であれば、誰でも簡単にプロのような写真が撮れます』と自分が持っている物と同じ型の最新のスマホを紹介されていた。現実は無常だよね。


「女子高生グループかな? 小食そうだけど、あのパフェ三人で食べるんだ」


「てか三人ともビジュアル良すぎじゃない!? タレントの卵とかかな!」


「女子会のレベル高過ぎない? カーストのトップにいそうだよね」


 僕たち三人が和気あいあいと写真を撮っていると、周りからそんな声が聞こえてきた。

 

 そうだよね。他人から見たら単なる女子会の光景だよね。そのパフェを一人で食べようとする女子がいるとは思わないよね。

 それとさっきカウンターの奥から、「あそこの三人女子グループ顔面偏差値高くて眼福なんだけど!?」とか聞こえてきたけど。僕が女子じゃなくて男子だということは夢にも思わないだろうな。

 

「これ……結構大きいよね? 本当に食べきれるの?」

 

「食べるよ! 当然でしょ!」

 

「三人でなら大丈夫かもですね?」

 

「え!? 瑠璃川さんも食べるの!? てか清水さん一人でパフェ食べるんじゃないの!?」

 

 そんな僕の言葉に二人は再びムッとした表情を見せると。

 

「当たり前でしょ! 今日は遊園地デートの取材なんだから!」

 

「そうですよ蒼君っ。それにこんな大きいサイズ――清水さん一人で食べきれないじゃないですかっ」

 

「え? 私はイケるよ?」


「「え?」」


 清水さんて意外と大食感(たいしょくかん)キャラだったんだ。桃色の髪に明るくて、かわいくて、大食感って某大手ゲーム会社のまん丸なあのキャラに似ているな。

 

「……なんか文春君、失礼なこと考えてない?」


 気取られたかッ。

 

「いや、清水さんは何というか……ポピュラーな愛されキャラだなって」

 

「それ褒め言葉だよね? まあ、うれしいけどさっ」

 

 僕は「そだよ」とだけ言って再びアイスコーヒーを口に含む。

 清水さんもそれ以上追及しては来なかったので、三人で目の前のパフェを撮り始めると、瑠璃川さんが突然。

 

「そういえばですねっ」

 

「ん? どうしたの?」

 

「蒼君と清水さんって最近すごく距離が近いというか……仲良しですよねっ」

 

「んー、そうかな?」

 

 言わずもがな、アプローチを受けている僕は、何となく清水さんの気持ち的なところは察しているつもりだけど。ここで変に意識をされてもと思ったので曖昧に返事をした。

 

「……そー見える?」

 

 清水さんは嬉しそうに口元を緩めて僕を凝視する。恋愛に興味が無いとはいえ、この流れで美少女である彼女にそういう振る舞いをされると少し照れそうになる。

 

「はいっ。同じ部活の部員として、転校生の清水さんが馴染んできたのも蒼君と一緒にいたからかなっと思ってましたが……」

 

 そこから先の言葉に悩んでいるのか、瑠璃川さんは僕を一瞥するとキャラメルマキアートを一口飲む。

 

「――だって私、文春君のこと好きだからね」

 

「ぶほっ!」

 

 突然の清水さんの爆弾発言に、僕は思わず口に含んでいたアイスコーヒーを吹きこぼしてしまった。

 そんな僕を前に、瑠璃川さんは両手を口元に添えて少女漫画を読む乙女のような恍惚(こうこつ)の表情を浮かべた。

 

「……えっと? 急にそんなこと言われても……」

 

「急だった?」


「き、急やねん」


「なんで関西弁?」

 

 清水さんは少し頬を赤らめ、いたずらな笑みで頬をつく。

 

「ちっ、ちなみにそれはラブの方ですかっ?」

 

 目の前の恋愛イベントに驚きを隠せないのか、瑠璃川さんは食い下がるように質問を続けた。

 ちょっ、いきなりこんなとこでこの話し続ける!? 僕の気持ちも考えて! めっちゃ顔熱い! 心臓がドラミング状態だよ!?

 

「んー! 友人としてライクなのはあたりまえだけど……そっちは内緒!」

 

 そう言って清水さんは人差し指を口元に当てる。

 いや、「内緒」って……もう答え言ってるようなもんじゃん! まだこの後も三人で遊園地回るのに!

 

 瑠璃川さんも顔を真っ赤にしながら僕と清水さんを交互に見る。

 

「わ、私、応援しますよっ!」


「ありがとう!」

 

「え、これ僕はなんて……」

 

「別になにもないでしょ! 告白したわけじゃいんだからっ」

 

「そ、そうだよね? なにも、ないもんね……」

 

 僕の反応がよっぽど面白いのか清水さんは「ふふっ」と微笑み「さて! ジョーダンはここまでにして、みんなでパフェを食べよう!」といつものように天真爛漫な少女に戻った。

 

 瑠璃川さんはそれ以上質問を続けることはなく、俊敏な動きで何やらノートにメモを書き込んだかと思えば、清水さんと二人で仲良くパフェを食べ始めた。

 まさかさっきの一連の流れも取材のネタにする、とかじゃないよね!? 横島先輩ほどの下衆みは無いにしても、瑠璃川さんもジャーナリズム魂が血気盛んなところあるからね。怖い。

 

 突然の出来事に脳が追い付かない状態の僕は、ただアイスコーヒーで喉を潤すことに徹した。………………あ、もう無いや。


 その後三人でパフェを食べながら、ぎこちなくも他愛のない会話をした後、レストランを出て再び遊園地へと戻った。

 

 何事もなかったかのように振る舞う清水さんを先頭に、僕たちは他のアトラクションを順に回って、あっという間に遊園地で過ごす時間が過ぎていった。僕の胸の内に僅かなしこりを残しながらも……。

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