第7話:天導術
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目の前に居るのは名前もよく知らない無能ムーヴ君だし、コイツは少なくとも俺よりかは強いというのが間違いないらしい。
困った事に俺がコイツより弱いのには理由が有るのも理解しており、そしてその理由に関しても既に俺はきちんと解っているんだ。
木剣を持って取り敢えず素振りをしてみてよく判った、先ずを以て身体が重くて更に体幹がブレてしまって動く的には当てられない。
「面倒臭いな」
本当にコイツらの相手をするのは面倒臭いな。
体幹がブレてしまってはどうにも成らないし、身体が重たいから動きは酷く鈍ってしまうのだ。
剣士としては余りにも弱く、これでは話にもならない訳だ。
「オラオラッ!」
「ぐっ!」
単純なレベルも低い、奴らは無能ムーヴ君ではあるが“精霊の森”と呼ばれる森で魔物を屠り、幾らかレベルを上げているとも聴いた。
一方の俺はまともに動く的へ当てられない為、森の浅い場所に湧出をする魔物でさえ斃せない。
かといって、ランス達に魔物を弱らせて貰ってトドメだけを刺した場合、レベルは上がるのかも知れないけど、それでは単純にレベルアップをして肉体的な力がただ付くだけに過ぎなかった。
ゲームで云えば高レベルなだけ、プレイヤーレベルが足りない。
「チィッ!」
舌打ちしてしまった。
剣術らしい剣術では無いが動きだけは悪くない無能ムーヴ君、レベルが上がらず体幹のブレがある俺では流石に勝てはしないのだろう。
「うりゃぁぁぁっ!」
無能ムーヴ君の横薙ぎ一閃。
「くっ!?」
俺の持つ木剣が手から弾かれて空中高く舞い、カランという音を鳴らしながら地面へと落ちる。
「喰らえやぁぁぁぁっ!」
目は閉じない、力を籠めて睨み付けながら奴の木剣を頭に喰らう。
バリンッ! 鈍い破砕音が鳴り響いて何かしら砕けた。
「「「ケインッ!」」」
ミスティ達からしたら破滅の音を聴いた気分だったろうし、逆に無能ムーヴ君からすれば良い音に聴こえたのかも知れないな。
口角を吊り上げて嘲笑う。
だけど直ぐにそれがとんだ勘違いだったと思い知る、何故なら砕けていたのは無能ムーヴ君の持っていた木剣の方だったからだ。
嘲笑った瞬間の驚愕だったのだから笑えたね。
とはいえ、俺も自分でも何が起きたのかが正直全く解らない、従って再現性が無いから次も上手く遣れる可能性は低いのか?
それは否だ!
俺の全身が淡い光に包まれているのが見える、何と無く行えたのは直感というやつだろうか?
「んっ!」
淡い光を手に集めて剣の形に収束させてみた。
未だに身体は重くて体幹のブレは有るのだが、それでも停まった的へ当てるくらいなら出来る!
「はぁぁぁっ!」
「っ!?」
「胴っ!」
淡くとも光り輝く剣が、無能ムーヴ君の胴を横薙ぎに叩いてやった。
「げぎゃばっ!?」
おかしな悲鳴を上げながら、後ろへと吹き飛んだ無能ムーヴ君。
完全なまぐれ当たりに過ぎない、だから何とかしてこの意味不明な状態から脱しないと駄目だ。
俺はそう考えながら意識を手放してしまった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「知らない天井だ……」
いや、マジで知らんぞ?
「起きたね、ケイン」
「美衣……ミスティ……」
「もう、また名前を間違える」
「悪い」
苦笑いを浮かべるミスティだが、ケインに対して晩御飯として黒パンとサラダを出してくれた。
「これは?」
「晩御飯だよ」
「戴きます」
バリバリと、黒パンとサラダをあっという間に食べ終える。
「御馳走様」
「御粗末様」
用意してくれたのはミスティだったのだろう、俺は更に次に出されたクッキーを口に容れた。
「あ、美味っ」
「デザート代わりにどう?」
「相変わらずだよな」
お菓子作りは可成り上手い、だから材料が少なくても有るだけで美味しいお菓子を作れるんだ。
流石に小麦粉だけで作れる訳も無いんだけど。
「それじゃ、ケインは暫く寝てて。私のベッドの匂いを堪能してよ」
「へ?」
ニコニコ笑顔を浮かべるミスティの爆弾発言、それには流石の俺にも羞恥心が沸いてしまった。
幼馴染みだから、一〇年間を一緒だったからと蓋をしてきたが、美衣奈は間違えようが無いくらいに美少女だから精神的に浮わつく。
そんな美衣奈と全く同じ顔をしたミスティだ、同一人物の様に見えるから矢張り浮わついてた。
異世界転生でも異世界転移でも無い筈だろう、ならば最初に考えていた通りの夢オチなのか?
それなら先程の気絶で何故に起きなかった? 明晰夢なのか或いは現実なのか理解も出来ない。
「ケイン、大丈夫かな?」
「あ、ああ」
ミスティが心配してくれているのが判るけど、流石にそれを面に出す訳にはいかないからな。
「じゃ、私は取り敢えず外へ出るからね」
「有り難う」
はっきり云って、助かったのも事実だから俺は素直にミスティに対してお礼を言っておいた。
彼女が部屋を出てから俺は先の模擬戦に於ける力を検証、正直に云えば俺にはどうやら魔力が殆んど無いのは間違いはないらしい。
「これは魔力じゃ無い」
力を籠めてみると淡い光が掌に集まっていく。
「これ、魔力じゃ無いのなら氣ってやつかな?」
世の中では肉体的や精神的な力が、確かに存在している事を一六年前には確認がされている。
即ち魔法を使う魔力、超能力を使う念力、霊能力を使う霊力、そして氣力……という訳だ。
だけど氣力に関しては精神よりも肉体に依存をしている為か、どうしても氣力の使い手みたいなのは未だに全く現れてはいなかった。
「氣力って、魔力とは同時には使い難いって話が有ったな。理由は……確か少なくとも氣力と魔力ってのは反発をするんだったかな?」
その所為か、魔力に目覚めた人間は氣力を扱えない訳では無いそうだが、それでも氣力に目覚めない可能性も高くなるみたいな話だったな。
「逆に言えば、魔力が殆んど無いっぽい俺ならば氣力を扱えるかも知れない。これが氣力ならな」
俺は掌が淡く光るのを視ながら、強く強く集中をしてみる。
「魔力は術式を通り道に、それを使い魔法陣を描き導く事で魔法という事象と成す。故に魔導術」
「ミスティ!」
「フフ、貴方が天導術に目覚めたみたいだね?」
「天導術?」
「数百年前、テンルィー・セイル・マーレイア王が使っていたという伝説が有るよ。でも実際にはその祖父君であるアメイジス・セイル・マーレイア王も使ったんだとか? 伝説なんだけどね」
「王?」
そうは言われても意味が判らん。
「歴史で習ったよね?」
「中央大陸マーレイアに在った、マーレイア王国の国王様だっけ?」
「そう。北方大陸エレメティアの南側の中央大陸だけど、今は魔物だらけの魔大陸と化してるよ」
確かにそれは今日の勉強で聴いていたんだが、明晰夢かと思っていたからいまいち頭に入らなかったというか、だから余り覚えていないな。
だけど天導術なんて聴いた事が無かったけど。
「えっと、大陸とか国とか王様とかは良いから、天導術って何? これって氣力だと思ったけど」
「氣力? ケインのそれは天力。天導術を使う為のエネルギーだよ。私は使えないだけに使い方を教えては上げられないんだけどさ」
「じゃあ、どうすれば?」
「ゴメンけど、流石に判らないんだ。直感でやって貰うしか無いね」
「判ったよ」
直感とか言われてもな、矢っ張りさっきって言うか模擬戦の時みたいに遣ってみるしかないか。
天力による天導術とは。
「氣力じゃ無かったのかね? このエネルギー」
掌に氣力? 天力とやらを収束させてみる。
「どんな事が出来るのやら」
まぁ、天力が使える様に成ったからって剣を使って無能ムーヴ君を相手に勝てないんだけどな!
何とか波! みたいな事を出来たりしないか?
俺は何ちゃらどうやらみたいな感じに力を籠めながら、『波ぁぁぁぁっ!』と叫んでみたが……
「無理か」
プスンとも出やしない。
「プッ、何してんの?」
「げっ!」
視られた!? スッゲー恥ずかしいんだが!
「これ、果実水」
「あ、有り難う……」
恥ずかしさを誤魔化す為にグイッと一気飲み、果物の甘味と少しの酸味が渾然一体で美味しい。
味的には梨に近いか?
「成果は出ていない?」
「まぁな」
天導術にばかりリソースは割けないんだよな、剣を扱う為の訓練もどうにかしないとだからさ。
夢なんだし適当で良くないか? とも思ってしまうが、あの無能ムーヴ君に敗けっぱなしも癪だからな。
これでもプライドは有るんだよ。
いや、これは本当に夢か? 無能ムーヴ君から殴られた時の痛みは確かに本物だったからなぁ。
「って言うか、今でも痛いしな」
頭にたん瘤が出来ていて痛みは今尚も有った、夢で痛いっていうのも有るものなのだろうか?
天力の使い過ぎか? ちょっと肉体に疲れてしまったのか、俺の瞼はゆっくりと重たくなった。
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