第5話:奈々歌先生の鑑定
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私立愛坂学園。
愛坂家の当主たる愛坂惣元により運営が成される学校法人、その真の目的はダンジョン探索を行える冒険者の数を確保する事にある。
冒険科の他にも魔工科みたいな冒険者関連となる学科が存在して、冒険者を守る為の取り組みをいの一番に採用してきた実績があった。
勿論、国内外問わず後追いをする形で冒険者を育成支援をする高等学校は私立や国立を中心に、随時増えてはいるけど先駆者が一番目立つ。
事実として米国や英国など、海外にもダンジョンは顕れていたから、冒険者はそちらに大分増えていた。
「こんにちは」
「はい、こんにちは」
美衣奈が挨拶を交わした相手は女性教師だが、持ち回りで教師達が換金所の担当をしている。
「早速、愛坂さんは我が校の初心者用のダンジョンに?」
「はい、幼馴染みの卦韻と一緒に入ダンをしましたよ」
「換金所をご利用?」
「はい、これですよ」
換金所の棚に魔核やドロップアイテムを置く。
「ゴブリンが多いけれど、ホーンラビットにコボルトにホーンウルフのが魔核も有るみたいね」
眼鏡美女といった風情だったが、どうやら眼鏡は単なる視力矯正やら伊達な眼鏡で無いらしい。
キランと眼鏡が光り輝いて、魔核やドロップアイテムを視ている。
「あの、その眼鏡は?」
「あら? 眼鏡がお好き?」
「いやいや、違うから!」
「フフ、冗談よ冗談」
ころころと笑顔を浮かべる女性教師は魅力的には思えたが、別に卦韻も彼女へと見惚れていた訳では無かったから言い訳をしてしまう。
女性教師も冗談の心算で言った、だけど美衣奈としてはちょっと面白い話では無かったらしい。
「痛っ!?」
「先生に見惚れて……」
「見惚れて無いよ!?」
可愛らしい嫉妬心から、美衣奈が卦韻のお腹を摘まんで来た。
「兎に角、奈々歌先生! さっさと鑑定をして下さい!」
「判ったわ」
悪戯心から揶揄ったのだろう。
「で、あの眼鏡って?」
「そう、鑑定の為の魔導具だよ」
卦韻の質問に答える美衣奈。
「因みに、あれを造ったのは小父様だったり」
「父さんが!?」
「冒険者にして魔工師だから」
「マジか……」
魔工師も冒険者と同様、約一六年前に創られた職業概念であり、魔核やドロップアイテム他を用いて魔導具を造り出す事を仕事としている。
一番の先駆者が楠葉慎吾であり、妻にして相棒的な立ち位置を獲得したのが楠葉扇歌であった。
二人は冒険者としてダンジョンへと潜る傍ら、魔工師として魔導具の研究と製作を担っている。
魔導具造りの魔工師、楠葉慎吾と楠葉扇歌とは正しくその始祖たる先駆者、そんな彼らが造った魔導具の一つがこのアイテムという訳だ。
「此方からは判らないけど、奈々歌先生が掛けているあの眼鏡は小父様が造った“鑑定眼”だから、視たならアイテムの情報が表示されるよ」
「“鑑定眼”……ね」
素晴らしく見た目の通りの名前、魔導具なんて殆んど見た事も無いから物珍しくてつい奈々歌先生の方をガン見、それを美衣奈がジト目に。
眼鏡で見目麗しい二十代半ばな、教員としては未だに入ったばかりの新人にも近い年頃の女性、見惚れても仕方がないと思えてしまうから。
美衣奈はプクッと膨れっ面に成ってしまった。
「はい、ゴブリンの魔核が一三個、コボルトの魔核が五個、ホーンラビットの魔核が三個、ホーンウルフの魔核が二個ね。それからホーンウルフの毛皮が一枚と牙が一本……と」
鑑定結果を淡々と計算して……
「合計で、一〇五五〇円ね」
その計算結果はすぐ算出された。
「尊厳の代償としちゃ、これが高いのか安いのか判らないけどな」
ゴブリンの魔核が三〇〇円。
コボルトの魔核が四〇〇円。
ホーンラビットの魔核が二五〇円。
ホーンウルフの魔核が五〇〇円。
ホーンウルフの毛皮が一二〇〇円。
ホーンウルフの牙が八〇〇円。
「端数の五五〇円と二〇〇〇円はパーティ資産、残りの八〇〇〇円を二人で分けて四〇〇〇円ね」
「日当が四〇〇〇円か」
昼から夕方までの数時間労働と考えれば悪くないのか? 働いた事の無い卦韻には判らない。
仮に時給八〇〇円だったとして、八時間労働をした場合は一日辺りが六四〇〇円となる訳だけど、危険が有る訳でも無いアルバイトなら悪くは無い金額と、今の卦韻ならば云えなくもなかった。
四〇〇〇円を財布に容れた卦韻、美衣奈を見遣れば彼女も渡された四〇〇〇円を財布に仕舞う。
「冒険者の問題は、矢っ張り回復の為のポーションという消耗品が常に不足する事。それに武器や防具なんかのメンテナンス、これらにどうしたってお金が掛かるからね。今回はプチポーションを使わなかったけど、次もそうだとは限らないよ」
「そうだな」
理解は出来る、壊れた武器や防具は修理が必要となるし、消耗品が使われれば買い足さないといけない。
プチポーションは一本が六〇〇円程度だけど、治せる怪我の程度は雀の涙くらいの回復率だ。
怪我はしないに限る。
「今回の冒険ではダメージを受けなかったから、防具は全く痛んではいないよな。武器は……」
「私は杖だけど使わなかったからね」
美衣奈はいったい何の為の杖なのかと謂わんばかりに、使ったりしないで魔法を放つ時は普通に腕を振って指先を使って行っていた。
「ケインも、武器のメンテナンスは考えなくても大丈夫だから」
「……何故?」
「聖霊剣クリスタリオンは元々は神剣クリスタリオンを七つに分けた物、分けられて力が落ちたとはいえ素材が変わる訳じゃ無いんだよ」
「若しや、素材はオリハルコンだったり!?」
キラキラと目を輝かせる卦韻に苦笑をする。
卦韻の趣味にラノベ読書が有り、ファンタジー御用達な素材が在るのなら胸が激アツであろう。
「残念ながら神鐡鋼じゃないんだよ」
「な~んだ。だったらアダマンタイトかミスリルか日緋色金か青生生魂? 何ならもうダマスカス鋼でも良いからさ! こん中に有ったりするのか?」
「あ、圧が強い……」
ファンタジーに出てきそうな金属の名前を羅列してくる圧に、流石の美衣奈でもタジタジに成ってしまってもう苦笑いしか浮かばない。
「抑々、神鐡鋼はと神金剛は神秘金属の類いで、真銀や日緋色金や青生生魂は魔導金属の類いなんだよ。これらは簡単に獲られないからね」
「そ、そうか……ってか在るんだなそれらって」
呆れる表情だったけど、その金属の存在その物は否定されていない。
「それじゃあ、クリスタリオンってのは何で出来てんだ?」
「神秘金属の神皇鋼」
「テラライト? 聴いた事も無い名前だよな?」
「そう……だろうね」
美衣奈は何処かしら遥か遠くを視ながら呟く。
「それに、神秘金属や魔導金属ってのは何だ?」
「神秘金属は神により齎らされたという金属で、魔導金属は不可思議な魔力を秘めてた金属だね」
「ダマスカス鋼の名前が無かったみたいだけど」
「それ、通常金属だからね」
幻の金属とも云われているけど、これは魔導金属では無くて飽く迄も通常金属の類いである。
「魔導金属なら地上でも希少ながら手には入るんだけど、流石に神秘金属の方は先ず手に入れられないだろうね。全く無い訳じゃ無いけど」
最後にボソッと付け足すかの様に言う美衣奈。
「さ、帰ろっか」
「判ったよ」
奈々歌先生に別れの挨拶をしてから愛坂学園の冒険者ギルド出張所を出た二人、家は其処まで遠くは無くて帰り着くのに時間は掛からない。
春休みという事もあって、其処らかしこに学生くらいの歳の少年少女は何人も居るというのに、冒険者の格好の者は全く見当たらなかった。
春休みだからかも知れないが。
家の前に立つ卦韻、扉を開けばいつもの日常に戻れる。
「ケイン」
「どうしたよ?」
「今日は確りと休みなね?」
「あ、ああ」
気遣う美衣奈の言葉に、卦韻は素直な首肯をするのであった。
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